【新型コロナのIRへの影響レポート】日本 5月28日版

JaIR編集委員・玉置泰紀

 日本政府は、コロナ禍にもかかわらず、大きな枠組みでの重要日程である「統合型リゾート(IR)の都道府県、政令指定市からのIR区域整備計画の認定申請の受け付け」を来年2021年1月4日から7月30日とし、現状では変更していない。各自治体はこれをデッドラインにしながらも、新型コロナウイルスによる遅延(海外事業者の本国への帰還や、実際に集まっての作業の難しさ、世界のIR市場への打撃など)により、年内のIR関連スケジュールを2~3か月、後ろ倒ししている。

 衝撃を持って受け止められたラスベガス・サンズの日本からの撤退、緊急事態宣言の解除など、日々状況は変化している。政府の現状とともに、申請を表明している大阪府・市、横浜市、和歌山県、長崎県の4か所に加え、調査を続け、意見募集を進めている東京都、愛知県の今の状況をまとめてみた。
 

【政府】各自治体からのIR認定申請受付日程は堅持

 赤羽一嘉国土交通大臣は4月13日の衆議院決算行政監視委員会で、新型コロナウイルスによるIRの整備スケジュールの変更はないと答えている。その際、各自治体から変更の要請が来ていないと説明しているが、自治体側は政府がスケジュールを変えないため、それに間に合わせていると説明しているところも多く、齟齬が生じている。

 基本的な流れでは、政府は1月7日、内閣府外局にカジノ管理委員会を設置。ここで、カジノ管理委員会規則を整備し、免許ライセンスや、カジノで可能なゲームの種類、クレジット制度など運営ルールが決まる。これに基づき、国土交通省は基本方針の策定・公表を1月中に行う予定だったが、新型コロナウイルスの影響で延期。当初3~4月にはという見込みが、いまだにできていないが、最終デッドラインの7月26日までに、基本方針を策定し、政府のIR推進本部が決定することになる。

 なぜ最終かと言えば、IR整備法が2018年7月26日に公布されており、基本方針決定の期日が、公布から2年を超えない、とされているからだ。この後、IR区域整備計画の提出期限が閣議決定される。国土交通省は、IR区域整備計画の審議会を設置し、提出情報や認定の判断基準の詳細を年内に明らかにする。これを受けて、各自治体は最終的に一つの事業者(コンソーシアム)を選び、政府に対して認定申請を行う。 

 この「統合型リゾート(IR)の都道府県、政令指定市からのIR区域整備計画の認定申請の受け付け」の期間が2021年1月4日~7月30日。8月以降、出そろった各自治体・事業事業者の候補から最大3か所を選び、政府IR推進本部がIR区域整備計画を決定する。最終的に2025~26年をめどにIRが開業する予定だ。

 7月26日というデッドラインは死守だが、どれぐらいギリギリに基本方針の策定・公表がされるのかが焦点になる。これを待って各自治体の申請までの活動は本格的にスタートする。とはいえ、新型コロナウイルス対策に集中している政府の中では現状IR関連の施策の優先順位は決して高くなく、観光やインバウンド自体が大きく見直されている中、世論を見ながらのかじ取りになる。

カジノ管理委員会ホームページ
https://www.jcrc.go.jp/

 

【大阪府・市】事業者選定の書類提出、選定を3か月延期

 大阪府IR推進局は3月27日、新型コロナウイルスを考慮して、実施方針案、募集要項を修正した。事業者選定の書類提出期限が4月から7月に、選定時期が6月から9月に延期された。土地の事業者への引き渡しも2021年秋から2022年春に延期され、「大阪・関西万博前の開業を目指す」(部分開業)の条項が削除された。万博後の開業でよいことになった。一方、開業時期の期限は2027年3月末までで変更なしとなっている。

 吉村洋文・大阪府知事は、5月20日の定例記者会見で、MGMリゾーツインターナショナルとオリックスのコンソーシアムが現時点でIR事業の継続の意思を変えていないことを明らかにしており、大阪府として見直しは考えていないことを強調している。大阪府は緊急事態宣言が解除されたが、吉村知事は4月8日の会見で、IR担当職員を新型コロナ対策に充てることを示唆していて、実際にどれぐらい実施されたかは不明だが、当面は感染症対策優先で、IRに係る作業は停滞を余儀なくされている。

「大阪IR基本構想」でのイメージ

 コンソーシアムのMGMの海外スタッフは本国に戻っている人が多く、会議などもリモートが中心の状況。大きな打撃を受けているラスベガス、マカオのIRの運営に注力しているという。オリックスもコンセッション事業として、関西国際空港、大阪国際空港(伊丹空港)、神戸空港の運営を行っていて、新型コロナウイルスによる利用者の激減など様々な領域で影響が出ており、3か月の延期を生かしながら、RFPのまとめを進めている。

大阪府ホームページ IR推進局
http://www.pref.osaka.lg.jp/bu_irsuishin/

 

【横浜市】RFP(募集要項)の発表を2か月延期

 横浜市は4月15日、新型コロナウイルスの影響を受けて、「横浜IRの方向性(案)」「実施方針(案)」「募集要項(案)の骨子」について、建築・都市整備・道路委員会での説明を4月下旬から6月下旬(第2回市会定例会)に延期を発表。「横浜IRの方向性」「実施方針」「募集要項の骨子」の公表についても、6月から8月に延期している。

 また、4月20日に、「横浜IR の方向性(素案)」へのパブリック・コメントの提出者数が5,071人であることを公表。募集期間は3月6日から4月6日までであった。横浜市の実施したパブコメでは過去最大。内容は集約して公表される予定だが、横浜市は反対運動も活発であり、過去の市民集会を見ても、IRに対してネガティブなコメントが予想される。

 横浜市で最大のショックだったのは、5月13日に最有力候補の一つだった海外事業者のラスベガス・サンズが日本のIRから撤退したことだろう。その後、第一四半期の発表に合わせて、ゲンティンやメルコ、ギャラクシーなどは横浜のIRへの変わらない決意を発信したが、サンズ撤退は海外事業者からの日本IR自体への問題提起ともいえ、今後の影響は大きい。

横浜市ホームページ IR(統合型リゾート)
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/seisaku/torikumi/IR/

 

【和歌山県】RFP申請はクレアベストとサンシティの2社に

 和歌山県は、「国がスケジュールを変更しない限り、予定通り」とし、新型コロナウイルスの影響については「事業者は来日しにくくなるが、電話やメールで公募作業は可能」という考えで、予定の変更は考えていない。また、開業時期については、大阪・関西万博開幕前の2025年4月を目指すと明言している。

 5月14日には、RFP(IR事業者公募選定)の参加資格審査の結果を発表。カナダをベースとするクレアベストベンチャーズと、マカオをベースにするサンシティグループホールディングスジャパンの2社が審査を通過した。この2社のいずれか、あるいは、その1社を代表企業とするコンソーシアムが選ばれる。

 これまでに、参加の意思を表明していたフランスのバリエール、フィリピンのブルームベリーはRFPの参加資格審査書類を提出しなかった。新型コロナウイルスの影響があったと思われる。

 この後、6月には競争的対話が始まり(8月7日まで)、8月31日を期限に、それぞれコンソーシアム構成員の参加資格審査書類、提案審査書類を提出。9月にはコンソーシアム構成員の参加資格審査の結果が告知される。11月中旬には優先権者が選定される。

※6月1日追記
 6月1日、和歌山県・IR推進室は「『和歌山県特定複合観光施設設置運営事業』提案審査書類の提出期限等の変更について」を発表し、新型コロナウィルス感染拡大の影響により、提案審査書類の提出期限を当初予定の8月31日締切から、10月19日締切に変更。優先権者の選定を2020年11月中旬から、2021年1月頃と変更した。

■関連記事
和歌山県・IRのRFP提案書類の提出期限変更を発表、事業者選定は2021年1月に
https://jair.report/article/325/

和歌山県ホームページ IR推進室
https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/020100/ir/top.html

 

【長崎県】RFPの公表は春から春~夏に延期、まだ発表はない

 長崎県は4月6日、「九州・長崎特定複合観光施設区域整備実施方針(素案)」から(案)への主な修正事項を公表。事業者選定の募集要項の発表を「春」から「春~夏」に変更。まだ、現時点で募集要項は発表されていない。

 5月22日には、第155回九州地方知事会議と第37回九州地域戦略会議がWeb開催されたが、両会議で九州・長崎IRが議論され、九州地域戦略会議として、欧米アジアのIR事業者にメッセージを決議し発信した。メッセージは、新型コロナウイルスのお見舞いと九州が一つであるという事が強調されており、事業者への期待として、以下の3点があげられている。

1.日本を代表する温泉地をはじめとする九州の多彩な魅力を世界に発信するとともに、観光関係者と連携し、九州内の周遊を促進し、九州全体の活性化を実現。

2.温暖な気候や海流に恵まれた九州の豊富で上質な食材等の世界への発信に向け、I R区域内の各施設で使用する食材等の調達について、九州内から積極的な調達を実施。

3.九州を元気にする企業間の連携や地域づくり等へ積極的な関与・協力を実施。

 RFCに対しては、香港資本のカレント‐ソフィテルマカオ・アットポンテ16&ゲットナイスホールディングス、同じく香港資本のオシドリ・インターナショナル・デベロップメント、そしてカジノ・オーストリア・インターナショナルの3社が提案を提出している。

長崎県のホームページ IR推進課
https://www.pref.nagasaki.jp/section/ir-shitsu/
 


【東京都】令和2年度予算でもIRの調査を計上

 東京都港湾局は、2014年度~2019年度に7回、IRについての調査を実施しており、2018、2019年からは東京都に立地した場合の影響調査に踏み込んでおり、2020年度も継続する。

 東京都は、2018年に「東京ベイアリアビジョン(仮称)の検討に係る官民連携チーム」の設置をしており、3回のワーキンググループを経て、昨年10月に最終提案「東京ベイエリアTowards2040 11カラーズ;未来創造域のデザイン」が提出されている。この11の提案のうち4番目が「MICE、IR、トランジットツーリズム」で、「世界に向けて『ここにしかない』ベイエリアツーリズムを展開する」として、イメージパースとともに、「東京の国際競争力強化『稼ぐ東京』のためにMICE、IR施設を整備して、国内外から人を集める」と謳われている。

 港湾局は昨年10月31日には、IRやMICEとは書かれていないものの、「青海地区のまちづくりに向けた民間事業者からの事業提案」の募集(サウンデング調査)の実施を発表しており、今年の1~2月に対面式で聞き取りを行っている。

 新型コロナウイルスによって、観光、インバウンドは大きな影響を受けており、先行きは不透明だが、7月5日に実施される東京都知事選挙の結果次第で、IR戦略は明確になっていくだろう。

東京都港湾局ホームページ 特定複合観光施設に関する調査分析報告書
https://www.kouwan.metro.tokyo.lg.jp/jigyo/announcement/irchosa.html
 


【愛知県】国土交通省の意向調査には答えず、調査研究は推進

 愛知県は昨年12月に、「特定複合観光施設区域整備の事業可能性の検討に係る意見募集」(RFC)を告知しており、募集期間は当初、2020年3月末までだったが、2月5日に5月末までに延長した。国土交通省の基本方針の策定・公表の延期によるものだ。

 募集実施の概要は、検討対象地は、中部国際空港(セントレア)のある空港島の県有地など約50ha。愛知県はこれまで、「MICEを核とした国際観光都市」の実現を目指した調査研究を2017年からスタート、2018年には調査結果の報告、これに基づく民間事業者からのアイデア募集も行われている。今回のRFCは政府のIR整備法に基づく意見募集となる。

調査研究対象となっている中部国際空港の空港島
 
 求める意見、提案は、基本コンセプト、市場調査、全体計画、施設計画、事業スケジュール、事業計画・事業効果、事業実施体制、懸案事項対策、地域の魅力を高める取り組みの9項目となっている。河村たかし名古屋市長も、IRに関して積極的な発言をしており、三重県のナガシマスパーランドを候補地としてあげたりしているが、具体的な動きはあまり進展していない。

 
愛知県ホームページ「特定複合観光施設区域整備の事業可能性の検討に係る意見募集について」
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/chiho-sosei/tokuteifukugokankoshisetsu.html
 

■JaIR関連資料DB一覧 (https://jair.report/archive/