【新型コロナのIRへの影響レポート】マカオ 5月20日版

二上葉子

 世界中で新型コロナウィルスの影響を受けて、各国では出入国制限や都市封鎖がなされてきたが、ここに来てようやく制限の緩和が見られ始めている。現段階でのIRがある主要な地域の新型コロナウィルス関連の動向を整理してお伝えする。
 

マカオでは2月に15日間カジノ閉鎖、4月以降は新規感染者ゼロ

 中国本土からの旅行客が9割を占めるマカオでは、1月22日にマカオで最初の新型コロナウイルス罹患者が確認され、一時的に感染者が増加したため、2月5日から15日間、マカオの全カジノの閉鎖に踏み切った。同時に併設のホテル、エンターテイメント施設なども休業。その後、2月20日からカジノ再開となり、入口での検温や、カジノテーブルでの人数制限による社会的な距離の維持など、公衆衛生対策をおこなったうえでの運営がなされている。

 カジノ閉鎖、外国人の入国禁止措置などが功奏し、2月上旬~3月上旬は感染者ゼロであったが、3月中旬に感染者が確認されたため、3月25日には入境制限を強め、中国本土や香港、台湾の住民のうち、14日以内に海外渡航歴のある人の入境も禁止した。

 マカオより後にウィルスが流行したラスベガス、シンガポールなどでは急激な感染拡大によりカジノ閉鎖が長期化するなかで、マカオではいち早い水際対策のおかげで、感染者数自体は5月20日現在で累計45名、死亡者0名。4月12日以降は新規感染者ゼロが続いている。5月19日、マカオ政府衛生局(Health Bureau)は マカオで、入院中の感染確認者の最後の1人が退院したことを報告した。

マカオ政府衛生局の新型コロナウィルス対策WEBサイト


 感染抑制に成功していることから、5月8日に香港・珠海・マカオ大橋の香港・マカオ間のの出入境間を運行するシャトルバスの運行が一部再開された。現在、香港からマカオへ入境する場合は、マカオ居民,中国本土、香港、台湾住民は政府指定の場所で14日間の医学観察が行われるという防疫措置が取られている。この大橋が唯一の入境ルートで、他の入境ルートである香港からのフェリーや、中国から陸路での渡航制限はいまだ解除されていない。またマカオのエアラインの再開もまだ具体的に発表されてはいない。
 

マカオ全体のカジノ総収入は8~9割減、IRオペレーターは役員刷新の動き

 マカオのカジノは2月に再開したとはいえ、入境者がほぼいない中での運営は非常に厳しく、マカオ全体でのカジノ収入は、2月は前年同月比88%減、3月に80%減、4月には97%減という過去最大の落ち込みが続いている。マカオ全体でのカジノ収入4月分は7億5400万パタカ(約101億9,500万円)で通常時の1日分にも満たず、各社は赤字を出し続けながらの営業となっている。マカオでのIRオペレーターのMGMチャイナやメルコは、新型コロナウィルスでの停滞期間にそれぞれ役員人事刷新をおこなった。新たな体制で立て直しを図る。

 また、マカオの賭博検査調整局(DICJ)のトップも、新型コロナウィルスの影響で任期前に退任となり、新たにアドリアーノ・ホー氏が6月10日にトップに就任する。新体制のもと、賭博枠組法が見直され、現在6社のカジノオペレーターが保有し2022年6月に期限が切れる「マカオのカジノ営業権」の公開入札が開始されることになる。

 

カジノ市場回復は中国との間での検疫緩和次第、近く緩和発表との見立て

 アメリカ系のIRオペレーターはマカオ市場の回復に関しては比較的楽観的な見方を示している。MGM経営陣は、マカオの旅行規制が緩和されると見られる今年夏以降、マカオ市場が「急速に回復する」と予測。MGMのビル・ホーンバックルCEO代行はマカオのカジノ産業にとって重要なフィーダー市場である広東省を楽観的な理由として挙げ、「所得の高い個人旅行者のための個人訪問制度(IVS)が復活し、その他の旅行規制が緩和されれば、マカオ市場は急速に回復すると同社は考えている」と述べた。

 ウィンのマドックスCEOは、マカオ市場の回復について楽観的な見方を続ける。マカオでは15日間のカジノ閉鎖後、約3週間で、1日当たりの赤字額は閉鎖期間の220万ドル(約2億円)越えから80万ドル(約8,606万円)に減少、ゲスト数がVIP層を中心に前四半期の約25%まで回復したと語った。

 香港・マカオ拠点のオペレーター、メルコのローレンス・ホー会長はマカオ市場の回復について「私の考えでは日に日に遅くなってきている」と投資アナリストに語り、「すべては国境と、それがいつ開放されるかにかかっている」と付け加えた。ホー会長は、マカオと中国本土間の旅行が正常化するタイミングが、香港絡みの旅行制限(検問)問題に巻き込まれてしまったことへの不満を表した。

 広東省とマカオ、香港の3地域では、3つの地域内を自由に移動できるようにする旅行検疫の緩和が検討されている。広東省とマカオ、香港の3地域では越境を簡略化する「健康QRコード」導入を検討中であり、中国システムの導入を議論しているが、香港側は香港での開発を希望し、調整が難航している。この行政システムは、個人の健康リスクレベルを示す3つのカラーコード(QR)があり、個人の移動とウィルス保有の履歴について証明するものである。


香港からのフェリー上からマカオ市街地を臨む。検疫緩和はいつになるのか

 アナリストはマカオ市場に対して比較的慎重な見方をしており、回復は2021年になるという予測をしている。ゲーム業界に特化したブティック型投資銀行であるユニオンゲーミング社のアナリストのジョン・ディクリー氏とサム・ガフィア氏は「2021年を通して順次回復し、年末までにオペレーターは2019年のGGR(ゲーミング総収入)ベンチマークの約80%にほぼ回復すると予測」と語った。野村證券アナリストも同様に慎重な見立てをしている。全世界のカジノ産業において、カジノ閉鎖期間が短かったマカオの復活が一つの指標となると見られる。

 今週5月22日から北京で始まる中国の全国人民代表大会(全人代)の年次総会において、新型コロナウィルス危機からの脱却を目指すマカオの状況について「前向きな発表」があるかもしれないとアナリストが見立てている。マカオのホー・イアット・セン最高経営責任者が全人代の開会式に出席する予定。中国の検疫緩和がマカオ復活の鍵を握る。

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