ラスベガス・サンズはなぜ日本から撤退したのか? 海外メディアが指摘する日本のIRの問題点

JaIR編集委員・玉置泰紀

 ラスベガス・サンズの日本からの撤退は海外のメディアでも取り上げられていて、いくつかの記事が上がっている。海外の投資家やアナリスト、業界に携わって日本のIRビジネスにも関わった人たちが感想を寄せており、新型コロナウイルスによるIRオペレーターの事業停滞も大きいが、秋元司衆院議員の逮捕から政府のスピードが鈍ったことと、厳しい規制に100億ドルを超える投資に見合うのかなど、日本のIRの問題点を突いた意見も多い。
横浜統合型リゾート産業展でのラスベガス・サンズのプレゼンテーション

事業環境の決定が遅れるほど状況は厳しくなる

 5月12日付のラスベガス・レヴュー・ジャーナルに寄せられたグローバル・マーケット・アドバイザーズ(Global Market Advisors 〔GMA〕リサーチ・コンサル)のパートナーであるブレンダン・バスマン氏は「事業者は、潜在的に事業を展開する環境を知りたがっている。知るのが遅れれば遅れるほど、強力な市場だとわかっているのに、より多くの人が手を引くことになるかもしれない」というコメント。春に予定されていた日本政府の基本方針の発表が6~7月に遅れたことで、投資規模100億ドル以上という可能性のある市場であるのに、事業環境が明確でない状況で見通しを立てることの困難さを指摘している。

Las Vegas Sands ends plans to build in Japan
By Las Vegas Review-Journal May 12, 2020
https://www.reviewjournal.com/business/casinos-gaming/las-vegas-sands-ends-plans-to-build-in-japan-2026948/

 サンズの撤退についてのニュースリリースでは次のアジア諸国については触れられていないが、サンズが4月に発表した最新の決算発表では、マカオ、シンガポール、韓国を「将来の開発の主要な関心分野」と見ていると書かれていた。バスマン氏は「日本はまだ本当に強い市場であり、素晴らしいゲーミング市場になる可能性があり、いくつかのハードルを乗り越えればいいだけの話だ」とも述べている。
横浜IRの候補地、山下ふ頭
 

海外事業者の参加条件、金融事情、マカオの再入札

 5月13日付のカジノ産業メディアであるGGRアジアでは、多くの投資アナリストやオブザーバーからコメントを集めており、さらに踏み込んで、日本市場の不確実性、遅延、規制上の問題について指摘している。

Too many unknowns for LVS in Japan: observers
By GGRAsia May 13, 2020
http://www.ggrasia.com/too-many-unknowns-for-lvs-in-japan-observers/

 CLSA証券会社のアナリストであるジェイ・デフィボー氏は、「日本では他の国に比べて期待されるリターンが低いこと、運営ルールがまだ不透明であること、ライセンス更新の問題などが要因として挙げられている」とコメント。さらに「日本のリゾート建設には100億米ドルの資本支出が必要とされていることから、ライセンス期間とライセンスの安全性に関する疑問が言及されている」と指摘している。また、「横浜のコンソーシアムで過半数のポジションを獲得できない可能性がある」と言及するものの「サンズの撤退が日本のIRの物語を終わらせるとは考えていない」とも付け加えている。

 ハードロック・インターナショナルの元上級副社長であるダニエル・チェン氏は、「おそらくサンズがカードを折った(横浜IRを断念した)のは、最終的に横浜のスキームでは少数株主となるだけでなく、二番煎じの役割を果たさなければならないかもしれないという認識だったのではないか」と発言。チェン氏はハードロック時代に日本市場の開拓に携わっていたが、「IRの条件はひどく悪くなっており、リターンは謳われている投資を正当化するものではなかった」と述べた。

 大きなポイントとしては、国際的なカジノ事業者が、日本IRの株主として過半数を占めることができるかどうかだが、公に明らかにされているわけではない。
 
 GGRアジアは、地元報道でのチェン氏のコメントで、来年の横浜市長選挙や一部の有権者が求めているカジノ反対の住民投票の可能性など、横浜の政治的な逆風にも言及していると触れている。また、日本の事業者選定プロセスの遅れが「マカオの再入札に近づいている」とも指摘しており、マカオの賭博権の公開入札に言及している。「同時に2つの大きな仕事に集中するのは難しく、2つの間で取捨選択をするのは明らか」とチェン氏のコメントを紹介している。

 証券会社サンフォード・C・バーンスタイン株式会社の投資家向け情報では、「ライセンスが短期であること、税率の高さ、日本でのカジノに対する制約の増大、資金調達の取り決めなど、いくつかの問題が、ラスベガス・サンズが日本での取り組みを中止する決断を下すことにつながった可能性が高い」と指摘。「日本での開発の主な利点の一つは、日本の金融機関からの超低金利での銀行借入を、株式リターンを高める方法として利用できる可能性があること」だが、「銀行が懸念している問題の1つに、日本でのIR事業の免許制度が10年間であることが挙げられる」と付け加えている。

 信用格付会社フィッチ・レーティングス社の2019年9月の投資家向け情報では、「日本で発行されたカジノ運営ライセンスは10年ごとの更新手続きを必要とすることが『銀行融資を確保する上での最大の障害』となる」という。また、この報告書では「カジノの総ゲーミング収入(GGR)に対する30%の税率が提案されていることが障害となる可能性がある」と付け加えられている。

 なお、マカオのGGRに対する税率は事実上39%であり、日本より高い設定であるが、すでに確立した施設・市場でのリターンはたやすい。また、現在マカオでのIR事業での6つのコンセッションとサブコンセッションは20年の有効期限があり、2022年6月に期限切れを迎える。

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