横浜市がIRの市民説明会を実施するも反対意見が噴出 

大谷イビサ(JaIR編集部)

 2019年6月25日、横浜市はIR導入を判断するために行なった調査報告について説明会を開催した。中区で行なわれた市民説明会では、調査報告書に基づき、日本型IRの概念や導入効果、各事業者からの提案内容が披露されたが、後半の質疑応答では参加者から反対論が多数を占めた。


 

超高齢化社会を迎え財政面での不安を抱える横浜市


 横浜市の中区役所の会議室で開催された市民説明会は、平成30年度(2018年度)に横浜市が行なった「IR(統合型リゾート)等新たな戦略的都市づくり検討調査」(その4)について40分かけて説明した。

 横浜市は2013年12月のIR推進法の提出を機にIRの基礎的な調査を開始し、IRの導入効果や代表的な事例、経済波及効果、ギャンブル等依存症対策を続けてきた。昨年、IR整備法が成立したことを受けた今回の「IR(統合型リゾート)等新たな戦略的都市づくり検討調査」(その4)では、横浜市としてIRを導入するか、しないかの判断材料として「日本型IRの全体像」「IRの事業性」「IRの経済的・社会的効果」「IRの懸念事項とその対応策」について事業者に情報提供を求めるとともに、有識者ヒアリングを実施したという。協力した事業者は12社で、このうち3社は公表を希望しなかった。

 前半では日本型IR制度の定義、マリーナベイサンズに代表されるIRの導入効果、IRの一要素であるカジノでのギャンブル等依存症対策、ラスベガスやマカオ、韓国などのIR事例などの説明。後半は横浜市を取り巻く状況と各事業者からのコンセプトイメージが披露された。

 横浜市を取り巻く状況と課題の説明としては、観光の伸び悩みが挙げられた。過去5年間の外国人宿泊者の伸び率を見ると、東京都で2倍、大阪府で2.7倍に対し、横浜市は1.7倍にとどまる。これは他の都市に比べ、日帰り客が圧倒的に多いためで、消費金額も低く、宿泊客の消費金額は東京都の5万5855円に対して、横浜市は3万3896円となっている。


横浜市の外国人宿泊数は伸び悩む

 財政面の懸念も大きい。横浜市にも人口減少、超高齢社会の波は迫っており、65歳以上の人口の割合は年々高まっていく。2025年には65歳以上が100万人、75歳以上が60万人を超え、医療や介護を安定的に供給できる体制が必要になる。しかし、横浜市は個人自民税が4割で、法人市民税が1割に満たないという市税収入の構造があり、570億円にとどまる。これは法人市民税収入が8309億円の東京都とも大きな開きがあり、人口の少ない大阪市や名古屋市よりも低い数字となる。医療・介護などの扶助費は10年間で1.8倍になっており、公共施設の保全にも900億円がかかる。総じて10年後には歳出に対して、歳入が660億円不足になるとみられている。
 

12事業者はすべて山下埠頭を想定 


 続いて、IR統合型リゾートの調査に移る。今回情報提供を行なった12の事業者はすべてIRの立地場所を「山下埠頭」と想定している。47haという広大なシンボル性の高い敷地で、横浜市内や羽田空港からも近く、みなとみらい地区や赤レンガ倉庫、大さん橋、山下公園など美しい景観も魅力的だという。


すべての事業者が山下埠頭を想定する

 説明会では各社からのコンセプトイメージも紹介された。MICE施設は横浜スタジアムの2.5~9倍にあたる7万㎡~22万9000㎡を想定し、パシフィコ横浜との連携や非常時の防災機能の確保も計画されている。また、日本の伝統文化・芸術を紹介する舞台や美術館魅力増進施設や送客施設、2700~5000室を擁する大規模な宿泊施設、商業施設、大型アリーナ、さまざまなエンターテインメント施設が提案されている。

 投資見込額は約6200億円~1兆3000億円を見込んでおり、年間の売上見込みは3500~8800億円。IR建設時の直接的な経済波及効果は4700億円~1兆1900億円。雇用効果に関しては、IR建設時には4万3000~10万人、開業後には1万~5万6000人が見込まれているという。自治体としての収入としては、カジノ入場料や納付金、各種税収の増加により、600億円~1400億円/年を見込む。下限値の600億円は横浜市の保育所、認定こども園、幼稚園の運営にかかる一般財源を上回る数字だという。
 

パブコメ9割が反対の横浜市 厳しい意見があふれる

 後半は質疑応答が行なわれたが、参加者からはIRに対しての反対意見が相次いだ。IR誘致に前向きに受け止め荒れる横浜市の態度をただす意見や、財政対策としてIR事業を誘致することに対する是非、IR事業者が破綻した際の市財政への影響、カジノ収益を市の財源に充てることに対する道義的な責任に向けた懸念など意見は多岐に及ぶ。一部のコメントを抜粋すると以下の通りになるが、今回の説明会においては、すべて反対の立場の意見となった。

「この報告書は客観的で正確な報告とは言えない。意図的にカジノ受け入れを誘導する内容になっている。横浜市の政策局はこの報告書にどのように関与したのか?」

「パブリックコメント433件のうち、94%が反対の意見。肯定的な意見を探すのが難しいような内容なのに、両論併記のように書かれているのはおかしい。米国アトランティックシティなどカジノが破綻している例があるのに、なぜ調べて披露しないのか」

「人口減少や少子化問題がどうしてカジノの導入と関係するのか? 法人市民税よりもはるかに大きな収入を依存したとき、財政破綻したら市はどうなるのか?」

「情報提供者の試算は経済効果のいいところばかりを知らせるもの。カジノ事業者への収入は市民が巻き上げられる額そのものではないか。政府が強行したカジノ推進法に横浜市がなぜ振り回されて開発会社のようになるのか?まったく理解できない。横浜市は暮らし、教育、福祉、中小企業の振興などに力を入れるべきではないのか?」

「ギャンブル依存症に対して、カウンセリングや専門治療プログラムなどの出口対策がメインのようだが、入り口として依存症にそもそもならないようにするための対策を横浜市は練られているのか?」

「横浜市はやるとも、やらないとも言ってないのに、12社の事業者が手を挙げて、場所も発表してないのに、みんな山下埠頭を想定と言っている。おかしいでしょう。反対運動というのは、やるというから反対するわけで、やらないと言ってれば、そもそもここに100名も来ませんよ。カジノは日本語で言えば『ばくち』なので、横浜市がどうにもならなくなる前に、カジノは辞めた方がいい」

「カジノの収益は日本人であれ、海外の人であれ、利用した人がすったお金ですよね。そのお金が入ってきたら増収にはなるでしょうが、そういうお金を使うことについて、市長や役員、議員の方々がどう考えているのかお聞きしたい」

 これに対してIRへの旗幟を鮮明にしていない横浜市の説明は、明確さや方向性を欠いており、参加者からは不満の声が漏れた。また、少なくともこの日の説明会においては、IRに向けて否定的な声が会場を主導し、IR賛成派や情報収集目的の市民の声を聞くことはできなかった。海外のIR事業者からは注目度の高い横浜市だが、地元の経済団体の意見も割れており、市民の意見をまとめるのはまだまだ時間がかかりそうだ。

■関連サイト
IR(統合型リゾート)等新たな戦略的都市づくりの検討