3年ぶりに「対面での交流」を生んだG2E Asia 2022の功績は大きい

文・写真=田中剛/text & photos by Tsuyoshi Tanaka

例年マカオで開催されていたカジノマシン、関連機器、カジノ周辺産業およびサービスの大規模展示会&カンファレンス「Global Gaming Expo Asia」(通称G2E Asia)が8月24日から26日、会場をシンガポールのIR施設「マリーナベイ・サンズ」に移し、3年ぶりにランドベースで開催された。

G2E Asia 2022の会場となったマリーナベイ・サンズ

 G2E Asiaは2007年6月の初開催以来、2019年までマカオで開催されてきた。初開催時は、マカオのコタイ地区の開発は始まったばかりで、統合型リゾート「ザ・ヴェネチアン・マカオ・リゾート」も開業していなかった(開業はG2E Asia開催の2カ月後)。ただし、マカオ半島側にはすでに「サンズ・マカオ」をはじめ、2000年のライセンス開放以降に開業したカジノがあり、2006年時点でマカオのゲーミング収益はラスベガスを追い抜いていた。つまり、マカオはアジアにおけるカジノの中心地であることは紛れもない事実で、アジアにおいて大規模な産業展が開催される場所にふさわしい。

 しかし現在、中国はゼロ・コロナ政策をとっており、マカオへの入境規制も非常に厳しい。産業展のために海外から入境することは、出展者にとっても参加者にとっても困難だ。また、マカオや香港のカジノ関連事業者が、産業展のために海外に出ることも難しい(帰国時の制約が大きいため)。そのため、代替都市としてシンガポールほど適した都市はなかっただろう。
チャンギ国際空港の新商業施設「ジュエル」の人工滝は今年4月に光と音のショーを2年ぶりに再開した

 すでに入国前の検査義務は撤廃され、レストラン等の営業や日常生活は通常の状態に戻っている。7月の外国人入国者は73万人で、観光スポットは外国人観光客でにぎわっている。シンガポール政府観光局(STB)の発表によれば、6月のホテル1室あたりの平均宿泊料金が2016年9月以来の高水準を記録した。なお、日本の観光庁によると8月1日~31日の間に日本への入国を希望している外国人観光客は、7月28日時点でわずか8072人(ERFS申請数に基づく)だった。


アイデアの交換は対面したほうが活発になる

 「G2E Asia 2022 Special Edition: Singapore」の会場となったのは、アジア地区を代表する統合型リゾート施設のひとつ「マリーナベイ・サンズ」(MBS)内のSands Expo & Convention Centre。ブース出展企業は約60社で、ひと目で「規模が小さい」と感じる。IGT、SGMS、アリストクラートといったスロットマシンメーカー大手が参加していないこともあり、会場内にゲーミングマシンの展示が少ない。G2E Asiaが臨時の措置としてシンガポールで開催したものの、マカオがいまだに厳しい状況下にある以上、イベント規模も来場者数も、かつてのG2E Asiaに劣るのは仕方のないことだ。
ゲーミングマシンメーカーで最も大きなスペースを使っていたJUMBO

 だが、3年ぶりにランドベースでのイベントが開催されたことは大きな意味がある。カンファレンス会場だけでなく、ブース展示ホールでも公私を織り交ぜた意見交換、情報交換が行われていた。

 ラスベガスを拠点とするカジノ・コンサルタントのAndrew Klebanow(アンドリュー・クレバノウ)氏も、「新製品を見に来た人はがっかりしたかもしれないが、このCOVID-19パンデミックの状況で、イベントが中止になるのではないかという不安は常にあり、製品の発想やチームの旅費などに多額の費用がかかることを考えれば、参加を見送るという判断をした企業があったのは仕方がない」と言う。そのうえで、「G2E Asiaの持つもうひとつの機能は同じ産業の専門家とのネットワーキングだ。3年ぶりにアジア、オーストラリア、北米から仲間が集まることができたというだけで、このイベントは成功だった」と振り返る。
開催2日目のセッションに登壇したジョージ・ゴディンホ教授(専門は刑法、ゲーミング法)

 イベント2日目に行われたマカオ市場をテーマにしたパネルディスカッションに登壇したJorge Godinho(ジョージ・ゴディンホ)教授(Instituto Superior Manuel Teixeira Gomes / University of Macau)は長年マカオ大学法学部でギャンブリング法を教えてきた専門家。新型コロナ禍で大学の授業と同様にカンファレンスのオンライン化が進んでいるが、ランドベースの会場でイベントが開催されたことに大きな意義があると言う。

「Webカンファレンスでは一方的に伝えることはできるが、アイデアの交換には向いていない。一方で、対面できるイベントでは、おなじみの面々や、この複雑な産業の仕組みやトレンドを理解するためにやってきた新しい顔に会える。これは嬉しいものですよ。実際、この会場のあちこちで久しぶりに活発な議論ができました」(ゴディンホ教授)
 

シンガポールは間違いなく国際会議・展示会に適した都市


 筆者も2人の意見に同感で、新型コロナ禍でマカオからポルトガルの大学ISMATに拠点を移しているゴディンホ教授とは、この会場でばったり会ったのだ。教授の他にも数人の旧知の業界関係者やジャーナリストからWhatsAppに「来てるのか?」とメッセージが入り、会場やMBS内のカフェで再会でき、興味深い意見を聞くことができた。それも、G2E Asiaがランドベース会場で開催されたからだ。
展示会が行われたコンベンションホール前にて

 ゴディンホ教授に印象的だったことを尋ねると、「多くの参加者が、『さほど遠くない時期にタイはカジノを合法化し、国内にいくつかの統合型リゾートが開業するだろう』と予想していること」とのことだった。実はタイでは2021年12月に、外国人観光客誘致と地域活性化を目的としたカジノを含む統合型リゾート導入を検討する臨時委員会が設置された。カジノ業界が注目するのも頷ける。 

 クレバノウ氏は、イベント会場だけでなくシンガポール自体を高く評価している。

「この国は間違いなく、国際イベントを開催するのに最も優れたアジアの都市のひとつだ。ハブ空港としてのチャンギ国際空港のアクセスの良さ、オンラインで事前登録するだけ済む手続きの容易さ。そしてさらに重要なことは、交通機関、ショッピングモール、レストランが住民や観光客でいっぱいで、街が完全に機能していた点だ」(クレバノウ氏)
シティ・ホール駅近くの「フナン・モール」はファッション、雑貨、飲食店を集積した流行のスポット

 クレバノウ氏の言うとおりで、筆者も夜のクラーク・キーを訪れてみたが、平日の23時過ぎなのにまるで「何かのお祭りでもやってるのか?」と思えるほどに観光客らしき人々で賑わっていた。

 中国が入境規制を緩和すれば、G2E Asiaは元のマカオに戻るだろう。だが、シンガポールは代替都市の役目を見事に果たしたし、イベント開催都市としての優位性、魅力を海外からの参加者にアピールすることに成功したはずだ。個人的には約3年半ぶりのシンガポール訪問だが、チャンギ国際空港の新商業施設「Jewel(ジュエル)」にはじまり、街中の商業ビルのテナント構成、交通機関の便利さ、さらに言えば物価の高さなど、多くの驚きがあった。そしてしばらくの間は、会う人会う人に、「シンガポールの進み具合はすごいよ!」と言うことだろう。


 

執筆者プロフィール
タナカツヨシ:パチンコ産業の経営層向け専門誌『Amusement Japan』を発行する(株)アミューズメントプレスジャパン執行役員常務。パチンコ産業の取材やユーザー分析の傍ら、世界10カ国でカジノを取材。

Tsuyoshi Tanaka is an executive officer of Amusement Press Japan Inc. which is running a prominent PACHINKO industry media brand 'Amusement Japan'. He is an editor/a researcher whose field is the pachinko industry, and on the side, he also studies the casino industry. He's visited casino venues as an editor in 10 countries.