5月13日に開催された「Japan Gaming Congress」のパネルに登壇した松竹副社長の細田光人氏。IRやオリンピック・パラリンピックの事業を担当している細田氏は、日本型IRに向けたコンテンツの方向性として、「伝統芸能とテクノロジー、ポップカルチャーの融合」をアピールした。
松竹 代表取締役副社長 細田光人氏
1895年に創業し、来年で125周年を迎える松竹。映画や演劇の製作から宣伝、配給・興行、映画館や劇場の運営まで幅広く手がけている。日本でトップ3に入る映画会社であり、小津安二郎監督の「東京物語」や寅さんでおなじみの「男はつらいよ」、「Departures」のタイトルで2009年に米国アカデミー賞を受賞した「おくりびと」など、数々の名作を配給している。演劇では、伝統芸能の歌舞伎を取り扱い、商業的に成功させている日本で唯一の企業でもある。
このように総合エンタテインメント企業として知られる松竹だが、6年前からIRや東京オリンピック・パラリンピックの事業もスタートさせている。細田氏は、「日本のエンタテインメント企業の中で、6年も前からIRの事業に携わっている会社はきわめて珍しいと考えています。IRと東京オリンピック・パラリンピックも、政府・内閣と緊密に連携しながら事業を進めています。日本のコンテンツの中でも、歌舞伎という伝統文化を営む唯一の企業として、日本型IRとしても、文化とスポーツの祭典である東京オリンピック・パラリンピックとしても、松竹という会社の責任はきわめて重要だと認識しています」と語る。
続いて細田氏は、日本のIRについての私見を披露。「長年の産みの苦しみを経て、IR実施法が昨年可決されましたが、『IR=カジノ』という認識の中、ギャンブル依存症対策や治安問題に議論が偏っており、もっとも重要な『いかに魅力的な、世界で初めての日本型IRを作り上げるのか』『日本型IRにおける魅力的なコンテンツとはなにか?』という議論がまだスタートしたばかりで、なにも具体的な内容が示されていないという点が大きな問題であると認識しています。日本型IRにおける魅力的なコンテンツという点では、松竹は非常に大きな責任を感じていますし、政府・内閣府からも大きな期待を寄せられています」と語る。
細田氏は、125年に渡って成長してきた松竹の競争力の源泉について、「伝統を維持することをよしとせず、伝統を尊重しつつ、つねに新しい要素を加えて進化させる。伝統と革新の融合がわれわれの源」と語る。その上で、「日本型IRにおいては、劇場のみならず、巨大なIR空間でお客様に楽しんでもらうコンテンツを開発していくこと。それが松竹に課せられた大きなミッションであることと認識している」とアピールする。
日本型IRを意識しながら、世界に例を見ない新しいコンテンツ作りにチャレンジしてきたというこの6年間。「まだまだ始めたばかりで試行錯誤を続けているが、1つの形として『日本の伝統芸能、最新テクノロジー、ポップカルチャーの融合」だと考えている」と語る細田氏は、テクノロジー×歌舞伎をビデオで披露する。
2015年にチームラボやパナソニックと協業して作り上げた「Japan KABUKI Festival in Las Vegas 2015-2016」のビデオ。ラスベガスのホテルベラージオでは、吹き上げた噴水をスクリーンに見立てたプロジェクションマッピングの前で、松本幸四郎(当時、市川染五郎)が歌舞伎を演じるというダイナミックな演目。累計で10万人ものオーディエンスを魅了したという。翌年、MGMのカッパーフィールドシアターで行なわれた歌舞伎に関しては、NTTやNAKEDの協力の下、リアルとバーチャルの融合、羽田空港へのリアルタイム配信などを実現したという。
2015年のホテルベラージオでの公演の模様(提供:松竹)
「歌舞伎というと、『伝統的な古い芸能』『敷居が高い』と思われることも多いのですが、私たちは日本型IRを展望しながら、いろんな技術をかけあわせ、若い世代、特に女性に楽しんでもらえるコンテンツを作るべく、いろいろなトライをしています」と細田氏は語る。
「日本型IRの開業までもう5年あまりしかない」と細田氏は危機感を募らせる。この短い期間でいかに世界に例を見ない、どこにもなかったような魅力的なIRを作り、世界中の人を呼び込み、日本の魅力を体感してもらう仕掛けが必要になる。
現在、松竹は銀座の歌舞伎座や東銀座の新橋演舞場などの劇場を展開しているが、京都の南座でも「京都ミライマツリ」という新しい取り組みを手がけた。「日本には夜楽しめるコンテンツが少ないと言われますが、南座ではナイトエンタメを意識し、フラット化したステージでお客様もいっしょに楽しんでもらえるようなコンテンツを開発しています」(細田氏)。
2019年6月には同じく京都の南座で、全世界で人気の高い「NARUTO」を歌舞伎化した新作歌舞伎「NARUTO -ナルト-」を上演したほか、8月には歌舞伎俳優の中村獅童とバーチャルシンガー初音ミクが共演する「八月南座超歌舞伎」を上演するという。
京都の南座で行なわれた「京都ミライマツリ」(提供:松竹)
細田氏は、「日本の文化を古典的な手法でみていただくというよりは、世界の人が考える日本のクールなかっこよさを組み合わせることによって、古典的な手法を際立たせる手法が必要だと考えています。いずれにせよ、ラスベガスやマカオで観られるモノを日本で上演しても魅力的にならないので、日本でしか観られないローカライズされたコンテンツがポイントになると思います」と語る。
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松竹 代表取締役副社長 細田光人氏
魅力的な日本型IRコンテンツの開発こそミッション
1895年に創業し、来年で125周年を迎える松竹。映画や演劇の製作から宣伝、配給・興行、映画館や劇場の運営まで幅広く手がけている。日本でトップ3に入る映画会社であり、小津安二郎監督の「東京物語」や寅さんでおなじみの「男はつらいよ」、「Departures」のタイトルで2009年に米国アカデミー賞を受賞した「おくりびと」など、数々の名作を配給している。演劇では、伝統芸能の歌舞伎を取り扱い、商業的に成功させている日本で唯一の企業でもある。
このように総合エンタテインメント企業として知られる松竹だが、6年前からIRや東京オリンピック・パラリンピックの事業もスタートさせている。細田氏は、「日本のエンタテインメント企業の中で、6年も前からIRの事業に携わっている会社はきわめて珍しいと考えています。IRと東京オリンピック・パラリンピックも、政府・内閣と緊密に連携しながら事業を進めています。日本のコンテンツの中でも、歌舞伎という伝統文化を営む唯一の企業として、日本型IRとしても、文化とスポーツの祭典である東京オリンピック・パラリンピックとしても、松竹という会社の責任はきわめて重要だと認識しています」と語る。
続いて細田氏は、日本のIRについての私見を披露。「長年の産みの苦しみを経て、IR実施法が昨年可決されましたが、『IR=カジノ』という認識の中、ギャンブル依存症対策や治安問題に議論が偏っており、もっとも重要な『いかに魅力的な、世界で初めての日本型IRを作り上げるのか』『日本型IRにおける魅力的なコンテンツとはなにか?』という議論がまだスタートしたばかりで、なにも具体的な内容が示されていないという点が大きな問題であると認識しています。日本型IRにおける魅力的なコンテンツという点では、松竹は非常に大きな責任を感じていますし、政府・内閣府からも大きな期待を寄せられています」と語る。
細田氏は、125年に渡って成長してきた松竹の競争力の源泉について、「伝統を維持することをよしとせず、伝統を尊重しつつ、つねに新しい要素を加えて進化させる。伝統と革新の融合がわれわれの源」と語る。その上で、「日本型IRにおいては、劇場のみならず、巨大なIR空間でお客様に楽しんでもらうコンテンツを開発していくこと。それが松竹に課せられた大きなミッションであることと認識している」とアピールする。
伝統芸能×テクノロジー×ポップカルチャーを試行錯誤
日本型IRを意識しながら、世界に例を見ない新しいコンテンツ作りにチャレンジしてきたというこの6年間。「まだまだ始めたばかりで試行錯誤を続けているが、1つの形として『日本の伝統芸能、最新テクノロジー、ポップカルチャーの融合」だと考えている」と語る細田氏は、テクノロジー×歌舞伎をビデオで披露する。
2015年にチームラボやパナソニックと協業して作り上げた「Japan KABUKI Festival in Las Vegas 2015-2016」のビデオ。ラスベガスのホテルベラージオでは、吹き上げた噴水をスクリーンに見立てたプロジェクションマッピングの前で、松本幸四郎(当時、市川染五郎)が歌舞伎を演じるというダイナミックな演目。累計で10万人ものオーディエンスを魅了したという。翌年、MGMのカッパーフィールドシアターで行なわれた歌舞伎に関しては、NTTやNAKEDの協力の下、リアルとバーチャルの融合、羽田空港へのリアルタイム配信などを実現したという。
2015年のホテルベラージオでの公演の模様(提供:松竹)
「歌舞伎というと、『伝統的な古い芸能』『敷居が高い』と思われることも多いのですが、私たちは日本型IRを展望しながら、いろんな技術をかけあわせ、若い世代、特に女性に楽しんでもらえるコンテンツを作るべく、いろいろなトライをしています」と細田氏は語る。
「日本型IRの開業までもう5年あまりしかない」と細田氏は危機感を募らせる。この短い期間でいかに世界に例を見ない、どこにもなかったような魅力的なIRを作り、世界中の人を呼び込み、日本の魅力を体感してもらう仕掛けが必要になる。
現在、松竹は銀座の歌舞伎座や東銀座の新橋演舞場などの劇場を展開しているが、京都の南座でも「京都ミライマツリ」という新しい取り組みを手がけた。「日本には夜楽しめるコンテンツが少ないと言われますが、南座ではナイトエンタメを意識し、フラット化したステージでお客様もいっしょに楽しんでもらえるようなコンテンツを開発しています」(細田氏)。
2019年6月には同じく京都の南座で、全世界で人気の高い「NARUTO」を歌舞伎化した新作歌舞伎「NARUTO -ナルト-」を上演したほか、8月には歌舞伎俳優の中村獅童とバーチャルシンガー初音ミクが共演する「八月南座超歌舞伎」を上演するという。
京都の南座で行なわれた「京都ミライマツリ」(提供:松竹)
細田氏は、「日本の文化を古典的な手法でみていただくというよりは、世界の人が考える日本のクールなかっこよさを組み合わせることによって、古典的な手法を際立たせる手法が必要だと考えています。いずれにせよ、ラスベガスやマカオで観られるモノを日本で上演しても魅力的にならないので、日本でしか観られないローカライズされたコンテンツがポイントになると思います」と語る。
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