インバウンド回復の鍵は富裕層の取り込み 観光庁の報告書を読み解く (1/2)

JaIR編集委員 玉置泰紀

 コロナ禍で大打撃を受けた日本のインバウンド観光だが、観光庁が6月に発表した観光白書によると、コロナ後の海外旅行先として日本は高い評価を受けているとしている。そして、鍵になってくるのが富裕層の取り組み。ここではIRにおいても重要な富裕層のインバウンドがどうなってくるのかを読み解いていきたい。

CC. 新倉山浅間公園と富士山
 

ポストコロナのインバウンドの回復には富裕層の取り込みが不可欠

 6月15日に発表した2021年4月期の決算説明資料において、星野リゾートは「インバウンドは戻るのか?」との問いに答えている。それによると、日本は2021年9月から一か国ずつ入国許可を開始し始め、 2021年は2019年対比で約5%、2023年には100%の戻りが期待できるという。

 そしてインバウンドがなぜ重要なのかという問いには、「『経済的価値×社会的役割』だから重要」だと答えている。

 「経済的価値」とは、国際観光市場が新興国を中心に中間層人口の増加に伴って拡大している成長市場になっていることを指す。「インバウンド」を「海外の方々に日本のサービスを買って頂く輸出産業」として捉えると、4.8兆円にも及ぶ市場規模は輸出産業の中でもすでに3番目の規模であり、人口減少の日本にあって地域経済に安定した経済基盤をもたらすという。

 そして、「社会的役割」は「観光はもっとも大きな平和方策である」ということだ。旅をしてもらうと日本を好きになってもらえるなど、国際観光は互いの相互理解を深める効果のある平和促進活動である。この掛け合わされることこそインバウンドは重要というわけだ。

 確かにコロナ禍で日本のインバウンドは大幅に落ち込んだ。しかし、観光庁が6月15日に発表した観光白書(「令和2年度観光の状況」及び「令和3年度観光施策」)では、以下のようにインバウンドの回復を見込んでいる。
 
・国連世界観光機関(UNWTO)の最新の見通しでは、2021年の国際観光は、ワクチンの普及等により、国際観光客数の回復が見込まれる。
・国際航空運送協会(IATA)によると、世界の航空旅客輸送が、2021年及び2022年には、2019年比でそれぞれ52%、88%の水準にまで回復すると見込まれる。

 そして同白書では、コロナ後の海外旅行先として、日本は高い評価を受けている資料が示されている。コロナ前の2019年までは、順調に来日旅行者の数は増えてきており、コロナ後にまずどの国に旅行に行きたいかという各国のアンケートでも日本は上位を占めており、観光地として魅力があるのは間違いない。特に、信頼感や安心感、そして白書で指摘されていた清潔感が大きな基盤になっていて、そこに日本独自の文化や食への期待が乗っかって来ている。
観光庁の「令和2年度観光の状況」及び「令和3年度観光施策」(観光白書)から
観光庁報告書に見る「訪日富裕旅行者」の消費・行動

観光庁報告書に見る「訪日富裕旅行者」の消費・行動

 そして、観光庁は観光白書公開直後の6月18日、「上質なインバウンド観光サービス創出に向けて」というコロナ後を見据えた報告書を公開している。

 この報告書のベースとなっているのは、2020年10月5日に立ち上げられた「上質なインバウンド観光サービス創出に向けた観光戦略検討委員会」での議論だ。観光・ホスピタリティ産業の第一人者が委員として名を連ねるこの委員会は、文字通りポストコロナ時代のインバウンド戦略の立案を目指しており、これまでに非公開の2回を含めて5回の委員会を開催し、今回の報告書を公開している。

 この報告書では、訪日旅行者の長期滞在と消費拡大に向け、これまで日本が誘致しきれていない富裕層など上質な観光サービスが求められ、これに相応の対価を支払う旅行者の訪日、滞在の促進を図るための環境整備が急務と指摘している。これを実現すべく、「上質な宿泊施設の開発促進やコンテンツの磨き上げ」を中心に、サービスを支える人材の確保・育成や効果的なプロモーションを含め、世界中の旅行者を惹きつける上質な観光体験を実現するための一体的な取り組みを官民挙げて迅速かつ強力に推進する必要があるという。

 そして、政府目標である2030年の訪日外国人旅行者数6,000万人、訪日外国人旅行消費額15兆円を実現するためには、これまで以上の上質な観光サービスによって旅行客の消費単価を上げることが急務であると指摘されている。そのためには相応の対価を支払う旅行者(富裕旅行者)の訪日と滞在促進を図るための環境整備が必須になる。

 富裕旅行者誘致の意義について報告書は、以下の3点を挙げている。
 
①成長戦略と地方創生
新たな顧客層の開拓を通じた観光収入の拡大と観光産業の成長、および地域の経済活性化への貢献が期待できる。

②ソフトパワーの向上
インフルエンサーである富裕旅行者による発信は日本のブランド力を高め、彼らの関心・好意度の向上が国際社会における我が国の地位向上につながる。

③文化・伝統産業への貢献
日本各地で衰退、消滅の危機に瀕する文化・伝統産業の未来への継承を富裕旅行者による文化消費が支える。