IRのビジネスチャンスとは? 九州IR推進協議会が初のIRセミナーを開催

大谷イビサ(JaIR編集部)

 2021年6月4日、九州IR推進協議会は「第1回九州IRセミナー:ビジネスチャンスとIR産業の基本概念」を開催した。前半ではゲーミング スタンダード アソシエーション ジャパン 梶武司氏と週刊ホテルレストラン編集長の長谷川耕平氏がIRにおけるビジネスチャンスについて解説を行なった。

IRは「オール九州」で取り組むべき

 2021年4月に発足した九州IR推進協議会(KIRC)は、長崎のIR誘致を実現すべく九州や長崎県の経済団体、地元自治体によって結成された。冒頭、挨拶に立った九州IR推進協議会の麻生泰会長は、協議会の役割として、IRで発生する地元の需要の調整役を果たすとともに、九州全域の観光を盛り上げるための連携を図っていくという2点を挙げた。その上で、「ご参加のみなさまには、ぜひ九州IRの応援団になっていただきたい」と期待を表明した。

九州IR推進協議会の麻生泰会長

 続いて登壇した佐世保商工会議所の金子卓也会頭は、佐世保市・長崎県のタッグで長らくIRの誘致に携わってきたことをアピール。「IRの投資規模を考えると、地元長崎県の経済界だけでは、人材・物品の供給が難しく、九州全体で取り組んでいただく必要がある」とオール九州での取り組みであることを強調した。また、新型コロナウイルスで落ち込んだ九州経済を再成長させる起爆剤として、IRへの理解と協力を聴衆に呼びかけた。

佐世保商工会議所の金子卓也会頭

ミニチュア都市であるIRにはビジネスチャンスは山ほど

 セミナー本編はゲーミング スタンダード アソシエーション ジャパン(以下、GSAジャパン)の梶武司氏の「IRに関わるビジネスチャンスとは?」という講演からスタートした。梶氏はもともとニュージャーシー州アトランテックシティーのカジノの運営に関わってきた経歴を持っており、現在はゲーミング業界団体​GSAジャパンのアジア地区総責任者となっている。

 梶氏は、「IR=ミニチュア都市開設」と定義し、さまざまなビジネスチャンスが拡がっていると指摘した。そして、その入り口としては、自らがオペレーターとのコンソーシアムに参加するほか、IR施設の納入事業者として関わる方法があると説明。たとえば、IRへの移動手段の確保、清掃や警備、メンテナンスなどIR施設の管理、食材や建設資材、システムなどの調達、MICEなどで行なわれるエンターテインメント関連など、さまざまな関わり方があるという。

ゲーミング スタンダード アソシエーション ジャパンの梶武司氏

 また、IR施設のみならず、開設される地域でのビジネスチャンスもある。IRを起点とした周辺地域への観光はもちろん、そもそもIRを立ち上げるだけで、人口が増加する。建設期間の3年間は3000~4000人の工事関係者が増加し、IRが開業したら従業員が増える。こうなると、地域にスーパーや病院、飲食店、レジャー施設などが必要になる。さらに、他の地域から「バズったビジネス」を輸入して、自ら運用することもできるという。

 長崎における観光のポテンシャルとしては、歴史の長い教会文化が魅力になるのではないかと持論を披露。「日本の教会の1/3が長崎にあり、かつ世界の宗教人口の1/3がキリスト教であることを考えれば、日本のキリスト教は観光要素として面白い」と指摘する。

 こうしたIR事業に参加する手法としては、個人戦と組織戦があるという。梶氏は、地元のニュージャージー州から資材を調達をしようと考えていたのに、結局は資本力や調達能力に優れた他州からの調達が多かったという経験を披露。そのため、個人事業者はネットワークを駆使して、組織戦に持ち込むという手段があるとアドバイスした。

 そして、巨大なIRができると、周辺の観光が停滞するのでは?という懸念については、観光地への訪問から顧客体験にシフトしたシンガポールモデルについて説明する。多くのシンガポールの観光客は期間中マリーナベイ・サンズ(MBS)にずっと籠もるのではなく、ウォータースポーツやインド街、動物園など、さまざまな体験型観光を楽しむ。「オペレーターも地域活性化が目的なので、周辺の観光を勧めこそすれ、邪魔することはありません。周辺と連携し、街中に派生するのがシンガポールモデル」と説明した。

 梶氏は、「IRに関わるビジネスは山ほどある。時間もまだあるので、お考えになっていただきたい」とまとめた。

マリーナベイ・サンズは従業員の経済規模も桁違い

 続いてホテルの専門媒体としての知見を披露したのは「週刊ホテルレストラン」を手がけるオータパブリケーションで出版事業部 制作ディレクター兼IR担当を務めている長谷川耕平氏。ホテル、レストラン、IRはもちろん、過去はテーマパークも担当しており、守備範囲の広い専門家だ。

 長谷川氏は開業後に参加したマリーナベイ・サンズのメディアツアーを振り返り、「タオルやリネン、食材、生花などの一日の消費量が桁違い」「1万人の従業員の飲食や購買もすごい」と指摘する。つまり、訪問者のみならず、裏で支える従業員が多いというだけで、IRの経済効果は大きいというわけだ。MBSの従業員向けユニホームはなんと600種類もあり、地元10社のユニフォーム会社が支えているという。また、従業員向けの食堂は24時間365日稼働しており、顧客に提供するものと遜色ないくらい品質やレベルも高いという。

 「IRができたら、地域経済にマイナスの影響があるのでは?」という疑問に対しては、老舗のラッフルズ・ホテル・シンガポールの支配人にインタビューしたときの話を披露。旅行客もMBSにずっと泊まるわけではなく、別途にラッフルズに泊まる観光客が増えるため、「むしろ恩恵があった」というコメントが得られたという。この動向は他のホテルも同じ。シンガポール観光局のデータによると、MBSができてから、平均客室単価(ABR)や稼働率も上がったとのこと。

オータパブリケーションズ 出版事業部 制作ディレクター兼IR担当 長谷川耕平氏

 続いて、梶氏の質問に答える形で、長谷川氏は東京ディズニーランドが日本を代表するテーマパークに成長した経緯を披露。開業後、最初4年間は苦しんだものの、マーケティングや集客を見直した結果、日本全国・海外からも客が訪れるようになり、アクセス網の改善や周辺ホテル開設も相次ぐようになった。単一のテーマパークから「まち作り」に発展したことが成功の鍵だったと持論を披露した。