5つの事業者が手を挙げる長崎のIRに早くから参入を表明してきたのが、カジノ・オーストリア・インターナショナル(CAI 以下、カジノ・オーストリア)だ。カジノ・オーストリアの強みや実績、長崎IRに手を挙げる理由、そして長崎のIRを成功させるプロジェクトの概要について、カジノ・オーストリア・インターナショナルジャパン(CAIJ)代表取締役社長の林明男氏に話を聞いた。
国営企業として各国のカジノを成功させてきた実績
長崎IRの事業者として手を挙げているカジノ・オーストリアは、カジノ、ロト、ゲーミング事業を手がけるオーストリアの国営企業として1934年に設立。現在、オーストリア12カ所、ドイツ10カ所、スイス10カ所を運営するほか、ベルギー、リヒテンシュタイン、ハンガリー、デンマーク、ジョージア、エジプト、カナダ、イスラエル、パレスチナなど、世界35か国、215か所でカジノを開設した実績を持つ。
過去、ヨーロッパではオランダは1976年に、スイスは1995年にカジノを合法化しているが、これらの国でのカジノ事業の立ち上げを支援してきたのがカジノ・オーストリアだ。「すでに運営していない国もありますが、頓挫したところは1カ所もありません。各国のルールに従い、各国の特色を活かしたカジノを経営してきたのが、われわれの強み」と林氏は語る。実際、オーストリア政府自体もカジノ・オーストリアの日本進出を強く支援しており、セバスティアン・クルツ首相もエンドースコメントを発信している。
国営企業ということで、きわめて厳しい監査を経て事業を運営しているのも大きい。たとえば、贈収賄防止マネジメントシステムの世界標準規格であるISO37001を世界のカジノグループで唯一取得している。また、2008年、2009年、2011年、2012年にヨーロッパで最高の権威を持つ「国際ゲーミング賞」、2010年には「責任あるゲーミング」でのオペレーター賞、2015年にも欧州のゲーミングオペレーターの最高賞もとっている。過去多くのカジノユーザーへ対処してきた実績を元に、ギャンブル依存症対策も欧州での知見を活かせるという。
さらにカジノ・オーストリアは国営企業としてオーストリアの持つ有形・無形の資産を十分に活用できるという強みがある。たとえばウィーン少年合唱団やウィーン室内管弦楽団など世界最高峰の音楽団体、世界中にファンを持つクリムトやココシュカ、エッガーなどの美術コレクションとのコネクションも持っている。
実際カジノ・オーストリアは、東日本大震災の復興プログラムとして「UTAU DAIKU」を長らく支援してきた。UTAU DAIKUはウィーン少年合唱団とオーストリアの室内管弦楽団とともに、ウィーンで第九を歌うというコンサートイベントで、2019年には福島で開催された。「ウィーン少年合唱団やクリムトを持ってこられるなんて、簡単に口にしているようですが、きちんと実績があるから話せるんです」と林氏は語る。
壊さないヨーロッパのカルチャーだから「ハウステンボスを活かせる」
実はカジノ・オーストリアが日本進出を開始したのは、IRという言葉が生まれるはるか以前の2004年にさかのぼる。当時は、沖縄やお台場、熱海などを舞台にカジノ合法化の機運が高まっていた時期。このときはカジノ合法化は頓挫したが、日本進出の準備は着実に進めており、今回のIR開設でようやく名乗りを上げることができたわけだ。
長崎IRに手を挙げた理由は、カジノ・オーストリアが郊外・地方に特化したカジノオペレーターであることも大きい。実際、2004年当時もターゲットにしていたのも、お台場ではなく、沖縄だったという。「もともとわれわれのカジノは湯治場からスタートしているので、郊外や地方がメインなのです。長崎という場所を選んだのも、もともと湯治場的な発想でカジノとメディカルヴィラを併設できると考えたから。優雅で拡張高いヨーロッパの文化を持ってくるのに向いた地域なんです」と林氏は語る。
実際、長崎IRの候補地はオランダの街並みを忠実に再現したハウステンボスに隣接する区域だ。同じヨーロッパという意味ではウィーンと街並みも似ているし、前述した通り、カジノ・オーストリアはオランダのカジノ開設に協力した経緯もあるので、親和性も高い。「ヨーロッパってスクラップ&ビルドではなく、壊さない文化。『ストック&リノベーション』で使えるモノは使っていき、いいものは残していくんです。その点、既存のハウステンボスを活かすという意味では、長崎のIRはわれわれのコンセプトとまさにマッチングしています。ハウステンボスといいシナジーが出せると思います」(林氏)。
長崎はアジアやヨーロッパへのゲートウェイとしての期待も大きい。林氏は、「長崎を中心にアジア圏でリーチできるお客さまは10億人を超えています。IRは失敗が許されないプロジェクト。確実な規模、立地、経営を念頭にして、持続可能で成功するIRを実現するためには、長崎以外の場所は考えられませんでした」と振り返る。
そして長崎県は、長らくIR誘致に向けて準備を続けてきたため、民意や議会の支持があるのも大きかった。「佐世保市からIRの誘致活動が始まり、長崎県に活動の主体が移り、今では九州全体を巻き込んだコンソーシアムに拡大しているので、われわれとしては組みやすい印象があります」と林氏は語る。
ロハスなカジノやメディカルヴィラを計画 コロナ対策も最先端
カジノオーストラリアが提出している長崎IRの事業計画では、カジノ、メッセ、メディカルヴィラ、ホテル、パーク、ミュージアム、マーケット(商店街)、スタジアム、ハーバーなど9つの区域を再開発する。前述したとおり、新規開発のみではなく、リノベーションを組み合わせ、しかも段階的に開発を進める予定だ。そして、ホテルやメディカルヴィラに関しては、日本を代表する建築家である隈研吾氏に監修を依頼する計画になっている。「建物などのハード面ではなく、たとえば欧州伝統的なクラシック音楽と日本伝統の歌舞伎の融合など、ソフト面でそういった取り組みができないか、関係者と模索しています」(林氏)
このうちカジノは、ヨーロッパ流を取り込んだ格式高い大人の社交場を目指している。「ヨーロッパのカジノは、あえて正装して、出かける社交場的な意味合いが強い。ゆとりのあるロハス的なカジノなので、女性も入りやすい。オペラやクラシックを鑑賞したあとに、一杯やりながら楽しめるカジノをイメージしています」と林氏は語る。
また、アピールポイントでもあるメディカルヴィラでは、従業員の健康管理を行なうとともに、アジア諸国のインバウンドを前提としたメディカルツーリズムに対応する。「コロナ禍以前は、海外からわざわざ日本の人間ドックを受けに来る旅行者が殺到していました。こうした人たちの受け皿になるべく、長期療養に対応し、化学治療やさまざまな予防医学を受けられるメディカルヴィラを構築し、日本のウェルネスを発信していきたいと考えています」(林氏)。
コロナ対策に関してもコンソーシアムを構成するビジネスパートナーがコロナ対策研究で先端を走る長崎大学と連携しており、特定臨床研究を行なったり、特許を出している先例もあるという。「感染症対策は最先端を進んでいると自負しています。まずはスポーツジムの感染対策に採用しますが、長期的にはコンサートホールやイベントにも活用していきたいです」(林氏)。
もちろん、グローバルオペレーターであるカジノ・オーストリアも全世界的なコロナウイルスの影響は受けているが、古くから手がけるオンラインゲーミング事業で収益の一部を補っているとのこと。とはいえ、今回、長崎IRには5社にもおよぶ事業者が手を挙げており、タフな戦いになるのは明らかだ。林氏は、「キーワードは安心、安全、そして安定。これを実現できるのは弊社だと思って、立候補させてもらっています。多くのオペレーターが長崎に目を向けてくれるのは、非常に喜ばしいこと。フェアプレイで切磋琢磨し、長崎を盛り上げていきたいです」と語る。
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