メガフロートや欧州クリエイティブエリアとの連携など千葉幕張のIR構想は未来感満載

大谷イビサ(JaIR編集部)

 2019年5月14日、千葉市幕張地区のIR誘致を推進する株式会社ちばの未来MICE・IRは「MICE・IR構想」の説明会を開催した。地元幕張の市民主導で生まれたIR構想は、ホテルやスタジアムを海上に浮かべるメガフロートや欧州で実績を上げているクリエイティブエリアとの連携など、未来感を感じさせる内容となった。

メガフロート上にエンターテイメント&リゾート施設やクリエイティブセンターを建設する幕張のMICE・IR計画
 

「こんなに恵まれたIRのための場所はない」


 「幕張新都心」として知られる千葉市美浜区にある幕張は、国際展示場、国際会議場、イベントホールを3施設で構成された日本最大級の「幕張メッセ」を擁するほか、周辺にホテル、駅前にショッピングセンター、ZOZOスタジアムなどがあり、幕張ベイタウンを中心に15万人の住民がいる。成田空港、東京都心、羽田空港からそれぞれ約40分と交通アクセスも良好だ。

 2016年5月に設立した株式会社ちばの未来MICE・IRは約8年前から幕張地区でのIR誘致活動を進め、IRについての勉強会や住民会の説明を行なってきた。今回の説明会は2018年7月のIR実施法の成立を受け、幕張のMICE・IR構想である「G.A.T.E.S RESORT MAKUHARI」を披露するとともに、千葉におけるIR誘致の機運を盛り上げる決起集会の意味合いもある。

 株式会社ちばの未来MICE・IR 社長である寒竹郁夫氏に続いて登壇したのは、現在ブロードキャピタルパートナーズCEOを務める折口雅博氏。商社時代にジュリアナを作って社会現象を起こし、人材派遣と24時間介護サービスを全国展開したグッドウィルグループの創業者である折口氏は、ちばの未来MICE・IRを支援する立場で講演した。

ブロードキャピタルパートナーズCEO 折口雅博氏

 幕張には幕張メッセという国際会議場や野球スタジアムがあり、「さらに、広大な海と空がある。こんなに恵まれたIRのための場所はない」と語る。また、世界中から富裕層を誘致することでもたらされる地域活性の循環について力説し、大型客船が停泊できる埠頭とプライベートジェットの離着陸が可能な滑走路、さらに近隣を結ぶ専用バスなどのインフラのあり方が重要になると指摘した。
 

かなり時間が限られるので「まき」でやらないと間に合わない

 続いて登壇したのはビジネス向けIRメディア「カジノIRジャパン」を運営するキャピタル&イノベーション代表の小池隆由氏。同氏はIRを巡る政府と自治体の動き、行政としてやるべきことなどについて説明した。

キャピタル&イノベーション代表の小池隆由氏

 2016年のIR推進法施行以降、行政としてIRを検討しているエリアは8箇所。このうち北海道、宮城県、東京都、神奈川県、愛知県は予算を取ってIR誘致を検討しており、大阪府、和歌山県、長崎県はIR誘致をすでに決定済みだ。千葉市は2014年末にIR調査報告書を発表してて以降、正式な動きがないというステータスだという。最終的にはIRが誘致できるエリアは3箇所に絞られる。IRの投資意向調査であるRFIも進められており、すでに30近いのIRオペレーターの提案を受けている自治体もある。「かなり時間が限られるので、誘致するのであればかなりまきでやっていく必要がある」と小池氏は語る。

 「財政力指標から見た千葉市」というタイトルで講演したのは、関西大学政策創造学部教授の白石真澄氏。幕張ベイタウン在住の白石氏は、「ゴミ収集は地下を走っているし、歩道は広いし、夕方になると自動的に電気は付くし、すごく素晴らしい街。でも、この状況がいつまで続くんだろうと思います」と街のインフラ維持に向けた不安を吐露した。

関西大学政策創造学部教授 白石真澄氏

 財政危機を回避すべく緊縮財政が続く地元の千葉市。高齢化などの影響で住民サービスに必要な扶助費が増えているが、税収は減り続けており、市税の割合は43.7%にまで下がっている。同じ千葉県で見ると、国際空港を擁する成田市、東京ディズニーランドを抱える浦安市に比べ、千葉市の幕張メッセの経済効果はそこまで大きくない。しかも、「将来のつけ」を表す将来負担比率が成田市や幕張市に比べて圧倒的に高く、事業者数も減っている。そして千葉市自体の総人口も2020年の97万9000人でピークを迎え、2065年には21万人減る見込みだ。

 こうした中、年間で3000万人の来場者があるディズニーリゾートのような装置産業が千葉市でも必要になるというのが白石氏の意見。「裾野の広い産業であるIRに挑戦し、交流人口の増大と雇用創出を行うべきというのが地元住民の声」とまとめた。

幕張でのIR計画はあくまで市民主導

 本編とも言える幕張のMICE・IR構想「G.A.T.E.S RESORT MAKUHARI」について説明したのは株式会社フォルム 代表取締役社長の松本有氏。まずはちばの未来MICE・IR設立までの経緯を説明する。

株式会社フォルム 代表取締役社長の松本有氏

 ちばの未来MICE・IRは8年前の2011年、松本氏、寒竹氏、吉田氏という幕張の経営者3人からスタートした。「3人の食事会で東京湾の夕陽を見ながら、『私たちはこのままでいいのかな?』と話し合った。海に夕日が沈み、富士山が見える、こんなに素敵な所なのに、海辺が真っ暗。これほど良い環境なのに、人が集まり、賑わいを作れるのになぜ海を活用していないのか」(松本氏)とのことで、人口減少の中で豊かな未来を実現できる観光産業を作っていくという方向性を打ち出した。これを実現するための手段として行き着いたのがIRだ。

 その後、現在の熊谷千葉市長ともにマリーナベイサンズのあるシンガポールを視察する中、幕張新都心MICE・IR推進を考える会と一般財団法人ちばの未来が連携する今の形になった。あくまで市民主導のIRプロジェクトという点が他の地域と異なるポイントと言える。さらに後述するメガフロートの技術開発に長けた日本大学理工学部や国際会計事務所と連携。景観資源を活かした環境と文化に特化したIRを民間投資で進め、千葉の豊かな未来を実現するのが目的だという。

 IRはカジノの設置にともなうゲーミングとホテルや国際会議場、ショッピングモール、エンタテインメント施設などのノンゲーミングがあり、さらに他の観光施設に向けた広域地域に対して、さまざまな事業機会を創出すると見込まれる。その点、幕張メッセでコンベンションを行なったあとの周辺へのツアーを組むことでさらなる経済効果が得られる。特に房総地域をリゾートとして開発することで、千葉全体に大きな経済効果をもたらすことができるという。

目玉はメガフロートとアルス・エレクトロニカとの提携

 具体的な幕張新都心MICE・IRとしては、既設の幕張メッセ、ビジネスエリア、ホテル・ショッピングエリアなどを基盤とし、交通インフラ、スポーツ・クリエイティブ、ホスピタリティ・エンタテインメントエリアを強化する構想となっている。

幕張新都心MICE・IRの構想

 最大の特徴は、地上エリアとは別に海上エリアを開発し、巨大浮体構造物である「メガフロート」を地上から1km程度の海上に浮かべ、大型客船用の埠頭やエンターテイメント&リゾート施設、全天候型スタジアム、そして、アルス・エレクトロニカ(Ars Eletronica)と呼ばれるクリエイティブセンターなどを配置。さらに沖合にはプライベートジェット用の海上空港もメガフロートで作り、直接乗り込めるようするという。

 海上エリアの目玉である「アルス・エレクトロニカ」は、オーストリア・リンツ市にあり、斜陽化した工業都市からの脱却を目指したリンツの市民が開いたメディアアートのイベントをきっかけに生まれた文化機関である。芸術と科学を融合したアルスは、未来の美術館と言われる「アルス・エレクトロニカセンター」やラボ、コンペティション、芸術祭など、様々な活動を行っている。計画ではこのアルスエレクトリカをクリエイティブパートナーとし、幕張をアート、エンタテインメント、テクノロジーを融合するクリエティブ都市として進化させるという。


 メガフロートは巨大な建造物のため、波による揺れもなく、建設もスピーディに行えるという。また、地面に接してないため地震等の影響も軽微で、災害時の防災基地としての役割も期待できるとのこと。メガフロートは水中トンネルとフロートブリッジで地上とつながれ、太陽光及び自然エネルギーを活用した次世代型交通システムで全天候型高速シャトル「スマートレール」等で移動できるという。

 また、地上エリアはカジノを含む統合型リゾートエリアとして、Eスポーツセンターの併設、リゾートホテルやショッピング、レストラン、クールジャパンモールの新設などが行なわれる。そして、次世代型路面電車「LRT(Light Rail Transit)」が海岸沿いを走り、近隣施設や駅との交通インフラを充実させていく。そして、「IR誘致によって、幕張だけでなく、日本全体が活性化する」と、松本氏は語っていた。

 説明会の後、懇親会が行なわれ、IR誘致に積極的な千葉市議会議員や、地元の経営者やIR誘致要望書を市長に提出した「千葉のみらいを考える女性の会」などが次々と登壇し、幕張IRへの意気込みを語った。

幕張新都心 MICE・IRを考える
http://chibanomirai.jp/