IRと万博から始まる関西・大阪のドリームスカムトゥルー物語

大谷イビサ(JaIR編集部)


 [関西]統合型リゾート産業展の基調講演に登壇したのは、IR誘致にもっとも注力している大阪府・大阪市のIR推進協会議の座長を務める溝畑宏氏。大阪の観光面での実績とポテンシャルをデータに基づきアピールした溝畑氏は、IRや万博を含めた大阪の近未来を描いた「ドリームスカムトゥルー物語」としてエネルギッシュに語った。



大阪府・大阪市IR推進協会議 座長、大阪観光局理事長 溝畑宏氏


大阪は観光推進国日本の牽引役たれ


 冒頭、溝畑氏は「IRは日本が本気になって観光で世界のアタマを取りに行くための起爆剤」と一声を挙げる。そして、シンガポールのリー・シェイロン氏の「観光は経済戦略であり、都市戦略であり、文化戦略である。生産性や収益性を追求すべきで、単なる呼び屋の仕事ではない」という言葉を引き合いに出し、自身が観光庁長官だった10年前を振り返る。

 当時、日本の観光は滞在日数や消費額、富裕層対策、MICEなどの分野で世界水準からかなり遅れをとっていたという。そのため、溝畑氏はビザの緩和、LCCの誘致、関西国際空港の一体化、羽田空港の国際化などさまざまなチャレンジをしてきた。「ここ数年のアベノミクスの中でも文化財の規制緩和など観光施策は続けられているが、今後も世界の中で突き抜けた観光施策やMICE、スマートシティの推進、交通インフラの強化などを官民挙げて遂げる必要がある」と語る。

 こうした中、大阪は「観光推進国日本の牽引役」を自覚し、IRに邁進している。「かれこれ8年近く、大阪はリスクをとり、IRを進めてきた。様子見の多かった中、最大限メリットを活かし、デメリットを最小限にし、攻めていくという理念を持っていたのは大阪でした」と観光庁長官の時代を振り返り、「日出ずる関西大阪のドリームスカムトゥルー物語」として大阪府市が考えるIR計画のポイントを説明した。

 まずは溝畑氏は全体のロードマップを披露する。大阪は「世界最高水準の成長型IR」を謳い、観光を基幹産業に据えた経済成長の起爆剤と位置づける。「24時間観光都市」「関西・西日本観光のハブ」「多様性あふれる街」の3つをミッションに掲げ、2025年の関西・大阪の万博まで大規模なイベントが目白押しだ。2019年には「ラグビーワールドカップ」や「ツーリズムエキスポ」、2020年には「オリンピック」、2021年にはアマチュアのオリンピックと言われる「関西ワールドマスターズ」などが続々開催される。


大規模なイベントやプロジェクトが目白押しの大阪

 これにあわせて施設や交通インフラも整備される見込み。施設や阪神高速の大和川線や北大阪急行の延伸などが開通したり、USJの新施設、中之島には未来医療国際拠点、新美術館もオープン。2023年にはうめきたの第2期工事で新駅の北梅田(仮称)が作られ、鉄道の延伸が進めば、関西国際空港、伊丹空港、新大阪、大阪市内、夢洲などのアクセスが大きく改善される見込み。想定としてはIRが2024年頃にオープンし、その勢いのまま2025年には関西・大阪の万博を迎えることになる。


大阪がIRにチャレンジすべき理由をデータで分析する


 溝畑氏ら観光局が行なっているのは、データに基づいたデジタルマーケティングだ。「ハッピ着て、祭りに出るみたいな旧態依然な業界から脱却し、データに基づいたマーケティングとブランディング、受け入れ体制の整備、国際的なイベントの誘致と開催で、スケジュールを回していくようにした」と溝畑氏はアピールする。

 そして、観光で世界に打って出る大阪ブランドのキーワードは、多様性、活力、包容力などを含んだ「Downtown Of Japan」だ。「みなさん。私がガキの頃、大阪は危ない、怖い、汚いまちと言われていました。でも、私はここに来て、風評被害であることに気がつきました」と語る溝畑氏。官民挙げた施策により、大阪はエコノミストによる世界の住みやすい都市ランキングで3位になり、英国の旅行ブック「RoughGuide」には人気都市の4位にも選ばれた。

 外国人観光客は2011年の158万人から2018年の1142万人になり、7年間でなんと7倍という屈指の伸び率を記録した。昨年は大阪北部地震や台風21号にも見舞われたが、東京に比べても高い成長を実現してきた。こうした観光客を支える関西国際空港は入出国人数で、すでに成田空港や羽田空港を抜いている。大阪を訪れるインバウンドの観光客はその多くが東アジアだが、一極集中を避けるため、ビザを免除したタイ、マレーシア、インドネシアなどのASEANや欧米豪にシフトさせている。ワールドカップラグビーや万博、IRの誕生、さらに新規オープンによって、欧米豪へのシフトはより加速する。


7年間で7.2倍に伸びた大阪の訪日観光客

 のべの宿泊客数も、ダウンしている全国平均、微増の東京に比べて、大阪だけは唯一伸びており、日本人の訪問も多い。これはホテルを誘致したことに加え、特区認定で合法民泊を推進したことが効いている。観光消費額も大阪は伸びており、一人あたり消費単価は10万円以上。半分以上は買い物で、全国のほぼ倍となる1日1.2万円を落としている。一方で、飲食は全国平均並みで、伸び悩んでいる。「先日ブリュッセルに行きましたが、1日あたり飲食に落とすお金は9000円です。大阪は安くて、うまいモノばかりなので、それに甘えてる」と溝畑氏は指摘する。これに対しては、消費単価の向上と「食の都・OSAKA」のアピールを進めるため、情報発信やイベントとの連携を進めていくという。

 飲食とともに、もう1つの課題はナイトコンテンツ(夜間消費)だ。グラフを見ると、ライブ、カラオケ、マッサージ、クラブなどはほとんど行っていない。観光客のGPSデータを調べると、多くの外国人は22時以降ほとんどホテルに帰ってしまう。そこで、大阪の19店舗では夜21時以降に使える特典付きのクーポンを発行し、観光局がPRするという「Osaka Night Out」という実証実験を進めている。

 また、スポーツも注力分野の1つだ。野球、サッカー、相撲、バスケット、ラグビーなどさまざまなスポーツを年中楽しめる環境を実現しつつ、MICEの施設でスポーツ産業をテーマにしていく。さらに夢洲の隣にあたる舞洲にはスポーツのシリコンバレーを作りたいという構想を打ち出す。「大阪にはプロのチーム、自治体や大学、スポーツ関連のメーカーなどさまざまな団体がある。東京ナショナルトレーニングセンターを補完し合えるような施設を作りたい」(溝畑氏)。

 さらに送客施策としては関西国際空港の現状を説明する。国際線は週1548便となり、昨年に比べて166便。欧米と中国内陸部へのLCCが増加し、現在は25カ国、89都市にのぼっているという。現在は24時間離発着可能なメリットを活かした関西空港の伸びが著しいが、溝畑氏は「神戸空港や伊丹空港もいずれ段階を踏みながら、国際化への舵を切らないといけないと思う」と持論を展開する。

 関東圏では、成田空港は滑走路を1つ増やし、運航便も午前12時までに伸びる。羽田空港も滑走路が増え、飛行ルートも変更される。「東京は空港政策、攻めてます。関空で渋滞している余裕はない。関空、伊丹、神戸の3空港で今は4800万人だが、8000万人にしないとアジアのハブにはなれないと思っている」(溝畑氏)は語る。
 

観光地としてパリを抜くための第一歩がIR


 溝畑氏は、大阪の訪問外国人が大きく伸びた理由について、「官民挙げて、お金も人も投入して、受け入れを必死でやってきたから」と強調する。宿泊設備や観光案内所、交通網の拡充はもちろん、WiFi整備や災害対策や医療施設などの確保、キャッシュレス・ATM、食のハラル対応・ベジタブル対応、観光ガイドや通訳の確保、トイレ・ゴミ対策、騒音対策など実に多岐にわたる受け入れ対応を進めてきた。

 溝畑氏は、大阪での違法民泊撲滅チームの取り組みについて語る。「民泊はメリットも、デメリットもあるけれど、大局的に考えたらやらなきゃあかん。松井市長も吉村知事もリスクをとって民泊をやることを決め、違法民泊撲滅チームを作って、徹底的に取り締まった」と溝畑氏は語る。この結果、特区民泊認定の居室7112室のうち、約9割が大阪市に集中しているという。


大阪市では違法民泊を徹底的に撲滅するチームが組まれた

 その上で、大阪をハブとするテーマ型の観光回遊ルートを構築し、広域連携を図っていくという。たとえば、「ウェルネスロード」であれば温泉やヘルシー食、美容、癒やしなど、「忍者・SAMURAIロード」であれば伝統工芸や文化体験、武道、庭園、城などをテーマとしていく。IRができることで、大阪が日本の観光のゲートウェイとして機能することになる。「IRは日本の観光にとって、関西、大阪にとって、すべての分野に波及効果を持ち、一気に生産性・収益性を高めていく設備。パリをいかに抜くか?を実現するための最初の一歩がIRだと思う。世界中から質の高い、人、モノ、カネが集まる大きなチャンスだと思っている」と溝畑氏は語る。

 この大阪IRの鍵となるのが、世界から大きく遅れをとっているMICE施設。10万㎡以上の展示スペース、6000/1万2000人の規模を持つ国際会議場、そして世界中からの参加者を受け入れる宿泊施設が必要になるという。その上で、関西や日本の魅力を増進する施設、前述した日本観光のゲートウェイを創出し、鉄道網や道路などが整備されたスマートシティを作り上げてという。

 もちろん、負の面とも言えるギャンブル依存症対策についても言及。世界140カ国で合法化されているカジノにおいては依存症対策がすでに確立しているが、大阪府市では医療機関、法曹界などと連携し、総合相談窓口を作り、啓発活動も徹底的に進めていくという。さらにICTを活用した予防も進め、ギャンブル依存症対策のトップランナーを目指していくという。

 現在、統合型リゾートに関しては、国による基本方針を待っている状態。大阪はすでにRFCを実施しており、6つのIRオペレーターが応じているが、基本方針が出たら、速やかに実施方針と事業者公募を進め、来年には事業者を決定。万博開催前、梅田地区の再開発が完了する2024年にはなんとかIR開業を間に合わせたいという。そして、成長型IRとして24年以降も成長を続けていくという。


万博以降も成長を続ける大阪のIR

 講演の最後、溝畑氏は、「大阪府市、観光局、経済界のみなさんだけではなく、大阪の府民・市民、関西のみなさんが夢躍る街を作っていくんやというムーブメントが必要になる。IRが日本の観光、都市、文化、経済政策におけるイノベーションの起爆剤となり、住んでよし、来てよし、働いてよしの地域社会を作っていくことにつながると思う」と語る。

 そして、IRや観光施策が一過性のモノではなく、成長性・持続性のあるものであることをアピールし、みんなの夢を実現する大阪の明るいベイエリアを作り上げたいと聴衆に説明。「みなさん、人生は1回しかありません。夢を語りましょう。そこに凝縮されています」と熱い想いをアピールした。

大阪へのIRの誘致
https://www.city.osaka.lg.jp/irsuishin/page/0000409560.html