カレントが描く長崎IRはエンターテインメントに徹底的にこだわる

大谷イビサ(JaIR編集部) 写真●曽根田元

 長崎県のIRプロジェクトに手を挙げるカレント(CURRENT)は、カジノやMICEよりもエンターテインメント施設としてのIRにこだわる。CURRENT代表取締役の鈴木保氏にビジネスプロフィール、長崎IRに至るまでの経緯、そしてエンターテインメントへのこだわりについて聞いた。

CURRENT代表取締役の鈴木保氏

あまたの経験がIRにつながり、たどり着いた長崎という場所

 

 CURRENT代表の鈴木保氏はエンタメ畑の出身、子役だったこともある。不動産開発会社を経て、エンターテインメント業界に入り、テレビ会社のコンテンツを用いてラスベガスで10年以上エンタメショーをやってきたという経験を持つ。その後、マカオでカジノホテルを展開するソフィテルマカオ・アットポンテ16でカジノホテルの運営に従事し、今から7年前にIRを立ち上げるために日本に戻ってきた。

 現在、鈴木氏はCURRENT、SHOTOKU、RINALDOなど複数の会社を抱えるSRCグループのトップとして、IR事業の投資やエンターテインメント観光の事業を手がける。「ラスベガスでショーを運営したり、不動産開発やカジノホテルの運営に携わった経験のある日本人なんてほとんどいないですよね」と鈴木氏は笑う。IRに関わるのが、まさに天命とも言えるような経験を重ねてきたわけだ。

 そんな経験を持つ鈴木氏だけに、過去には数多くのIRプロジェクトに関わってきた。大阪や和歌山、横浜など現在手を挙げている候補地はもちろん、北海道や静岡、沖縄など過去に手を挙げていた候補地にも足を運んだ。こうして多くの自治体とやりとりした結果、2年前にたどり着いたのが長崎だった。「最初に長崎に来たときに、目がキラキラしている人が多いのが印象的でした。一言言っただけで、ここまで前向きに捉えてくれる。初めて行ったのに、昔からの友人のように応援してくれる。これってすごいなと。土地柄としか言い様がありません」と鈴木氏は振り返る。

1ヶ月の半分は長崎 焼き鳥屋で地元の声に耳を傾ける

 鈴木氏が考える長崎の魅力はアジアとの近接性だ。「4時間以内」という条件であれば、北京、上海、台湾、韓国など広くアジア圏をカバーし、佐世保を港とした客船の行き来も多い。もちろん、国内であれば、車で九州や山口県まで収まる。また観光面でも、歴史のある町並みや数多くの温泉地を有し、アイランドホッピングしやすい五島列島、廃坑として有名な軍艦島など、体験型観光にも適した観光地も多い。

 とはいえ、こうした魅力を今まで長崎はアピールし切れてこなかった。これが鈴木氏の指摘する問題点だ。長崎には福岡や熊本では当たり前にあるようなブランドや店舗がなかったため、週末に長崎から特急かもめに乗って福岡に買い物に出かける「かもめ族」という言葉すらあった。「でも、歴史的に新しい文化がもっとも入ってきたのは長崎。だから、県民には今でも『長崎は最先端の県』という自負があります。だからこそ、最先端のIRにチャレンジする必要があります」と鈴木氏は語る。

 今ではCURRENETの本社を長崎市、支社を佐世保に置き、長崎のIRに向けた準備を進めている。鈴木氏も月の半分は長崎に滞在し、地元への説明や意見交換に汗を流しているという。「焼き鳥屋に通っていれば、地元の人たちがなにを考えているかわかります。こういう活動をしないで『長崎をよくします』なんて言ったって、それは詭弁としか受け取られません」と鈴木氏は語る。

 長崎県のIRはハウステンボスが所有する土地の一部をIRとして利用する予定となっている。そして、CURRENTが描くIRは近代的な建物と古い町並みが混在するオランダの街のようなイメージだという。鈴木氏は「ハウステンボスはもちろん残るので、歴史と未来を融合させるようなイメージです」と語る。スイートルーム3000室を擁するホテル、車1万台、バス200台くらいの駐車場も用意する。

CURRENTが描く長崎のIR

 当然、巨額の投資が必要になるが、鈴木氏の出身母体であるソフィテルマカオ・アットポンテ16、香港に上場するゲット・ナイス・ホールディングスなどから資金を集めている。「すでに長崎県には6500億円をグループ内で調達済みである旨を伝えており、いつでも資金証明を提出できるよう準備を終えています」(鈴木氏)とのことだ。

エンターテインメントが成立しなければIRとしての成功は難しい

 CURRENTの手がけるIRの特徴は、鈴木氏の出自でもあるエンターテインメントへのこだわりだ。「ハウステンボスのどこが弱かったかかというと、やはりエンターテインメントだと思うんです。確かにIRにおいてカジノの売上比率は大きいですが、ターゲットはあくまでカジノを目的とした客。日本人が観光としてIRに来る場合は、おいしい食事、楽しい買い物、普段見られないショーなど、エンターテインメントが成立していなければ、まず成功は難しいと思っています」と鈴木氏は指摘する。

 IRなので、カジノはあるが、人を惹きつけるのはあくまでエンターテインメント。具体的なプランもいくつかあるようで、カジノからエンターテインメントへとシフトするIRのトレンドを大きく反映させた施設になりそうだ。一方で、MICEに関しては、専門業者と提携して展開するが、「コロナ禍もあり、もはやビジネスとしては成立しにくい」(鈴木氏)と必ずしも前向きでもない。一方で、「防災型IR」を謳い、台風や地震などの自然災害時のシェルターとして利用できるようになっており、ポストコロナのIRとしての条件も備えている。

 とはいえ、コロナ禍の影響は大きい。出ると言っていた政府の基本方針もなかなか出ず、先日は認定申請の期間も後ろ倒しになった。鈴木氏は、「認定申請期間も2021年中ならともかく、さすがに2022年中にまで延びたら厳しい」と釘を刺す。また、ポストコロナのIRについては、「部分開業を認めない方針はナンセンスだし、三密を回避するためにも、エリア内に閉じたオンラインカジノはぜひ解禁してもらいたい」と訴える。

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