日本カジノ学院が考える「IRにおけるカジノディーラーという職業」

大谷イビサ(JaIR編集部)

 IR(統合型リゾート)の収益の源泉を担うカジノにおいて、なくてはならないのはゲームを差配するカジノディーラーだ。しかし、日本にIRやカジノがない以上、カジノディーラーの仕事の中身やキャリアパスを理解している人はほとんどいないだろう。ここでは、カジノディーラーに必要な知識とスキルを学べる日本カジノ学院 代表の贄田崇矢氏、学院長の白石勝樹氏に、カジノディーラーという職業について話を聞いた。

日本カジノ学院 代表 贄田崇矢氏

「究極の接客業」であるカジノディーラーに必要なスキルと知識


 カジノディーラーの育成を行なう日本カジノ学院の開校は2015年にさかのぼる(運営会社のCECは2014年9月に設立)。2017年の春に現在の渋谷校に加え、大阪校もスタートし、名古屋、福岡、札幌(現在は休校中)などに教室を持っている。ちなみに開校時点、統合型リゾートの前提となるカジノは合法化されておらず、2016年12月に「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(IR推進法)が成立したことで、カジノの法制度化の道が開かれている。

 日本カジノ学院の基本はカジノディーラーの育成だ。ここでは各オペレーターがカリキュラムに入れているIRやカジノの基礎知識、ゲームのルールやセキュリティ、ハウスエッジ(控除率)、レスポンシブルゲーミングなどの知識に加え、教室内にある本物のカジノテーブルでチップやカードを使った実技を学ぶ。現在の登録人数は渋谷で120名超、大阪で80名超、他は50名前後。「生徒は17歳から64歳まで幅広いです。ポーカーをネタにしているYouTuberの影響で参加する若者も増えました」(白石氏)と語る。

 基本となるゲームルールでは、バカラ、ブラックジャック、テキサスホールデム(ポーカーの一種)、そしてルーレットの4種類をプレイし、ルールを覚え込む。「ゲームとしてはバカラとブラックジャックは必須。より高い給料を得るためには世界中で流行しているテキサスホールデムとルーレットを学ぶべきという考えからです」(白石氏)。一方で、専門知識が必要なスロットや人気に陰りが出ているクラップスは座学のみでの存在だという。

 その後、ディーラーの立場に立って、プレイのために必要なカードシャッフル、チップの受け渡しを学んでいく。ディーラーの所作やゲームの流行は時代によって変遷しているが、講師は海外のカジノオペレーターでトレーニングを受けており、最新のディーリングを学べるという。「最近ではカードシャッフルは機械化されているところがほとんど。でも、VIPのためにディーラーが自らやる必要もありますし、なにせ基礎なのできちんと教えています」と贄田氏は語る。
 

カジノディーラーの仕事はIRでも重要なポジション


 カジノとIRの基礎を学ぶ同校の「本科コース」は基本1年で消化する。上位の「エキスパートコース」は1年半をかけて、プレイヤーがストレスなくゲームを楽しめるよう、接客や気配りまでたたき込まれる。「商品がないのにお金のやりとりを生み出すという点では、究極の接客業と言えるのがディーラー。この知識を踏まえ、経験を積むことで、ディーラーを束ねるピットマネージャーやピットボスに昇格していきます。いずれにせよ、カジノの仕事の基礎はディーラーなので、日本カジノ学院では座学と実技でそこを培っていきます」(白石氏)。自動車教習場のように休暇中に通い詰め、最短で3ヶ月くらいで消化する生徒もいるそうだ。

 チップやカードさばきに目を奪われがちなカジノディーラーだが、多種多様なIRの仕事においても重要な仕事だと贄田氏は強調する。「確かにIRにおいては、すべての従業員がディーラーになるわけではありません。ただ、IRの収益はかなりの部分がカジノに依存していますし、カジノを楽しみにIRにいらっしゃるお客さまも多い。だから、ディーラーは屋台骨となる仕事だと思っています。イベントやホテルなど周辺業務でも、少なくともカジノのルールや基礎知識は押さえておくべきです」と語る。
本場のカジノテーブルでプレイや接客について学ぶ(渋谷校)

 もちろん、スキルだけ磨けば、誰でもディーラーを職業にできるわけではない。「接客業で必要なホスピタリティやカスタマーサービスも重要だし、そもそも会社組織に所属するわけだから、基本的なビジネスマナーや誠実さ、人間性も必要です。特に日本は今後幹部候補生が必要になるので、そういった部分が重視されると思います」と贄田氏は語る。

 IRはカジノ以外にも、ホテルやエンターテインメントなどのさまざまな施設があり、一般企業と同じく営業や人事、マーケティング、IT・セキュリティなどの部署もある。しかし、マネージャーとして出世していけばいくほど、ディーラーとしての知識や経験が重要になってくるという。実際、海外のIRでは、さまざまなジョブローテーションが行なわれるが、カジノディーラーを必須スキルと位置づける事業者も多いという。
 

日本にカジノがないからこそアドバンテージがある


 卒業生はテレビやイベントなどのタレントとして活躍することも多いが、IRに就職することもあるという。日本カジノ学院の場合、IR専門の人材企業であるカナダのAURA社と提携しており、卒業生は海外IRでの就業という道も開けている。また、英会話教室とも提携しており、現場で活用できる英会話の鍛錬にも力を注いでいる。

 今後、計画通り日本にIRができた場合、カジノディーラーという新しい職業が生まれることになる。多くのIRのカジノ施設は24時間体制で営業を行なっており、1日3~4交代制と考えても、1カ所あたり1000~3000人のディーラーが必要になる。シンガポールのマリーナベイ・サンズの場合、2010年にオープンする3年前にトレーニング設備を開始させ、500テーブル・3200人のディーラーを確保したという。

 日本でも最短で5~6年後には3カ所で約1万人のカジノディーラーが必要になる。しかし、すべてを外国人で補うのは現実的ではないため、日本人のカジノディーラーが必要になる。「今はワーキングホリデーを使って海外のIRで働きたいという若者が多いですが、日本のIRを見据えてトレーニングしておきたいという方もいますし、カジノのマーケティングに興味を持ってディーラーについて学ぶ方もいます。われわれも、日本でまだカジノがないからこそ、今後のアドバンテージになると言っています」(贄田氏)。

■関連サイト
日本カジノ学院
https://casino-academy.jp/