【新型コロナのIRへの影響レポート】シンガポール 9月1日版 (1/2)

二上葉子

 世界中で新型コロナウィルスの影響を受けて、各国では出入国制限や都市封鎖がなされてきたが、徐々に制限の緩和が始まっている。日本型IRビジネスレポート(JaIR)では、IRがある主要な地域の新型コロナウィルス関連の動向を配信。ラスベガス韓国マカオに引き続き、今回はシンガポールの最新状況をレポートする。

シンガポールのマリーナベイ
 

新型コロナ感染者は減少、デング熱大流行は続く

 シンガポールでは、新型コロナウィルス感染者数は、7月から8月にかけて緩やかに減少し、1日の新規感染者は8月中旬以降は2桁台を推移している。8月31日現在の新規感染者は41名、感染者累計は56,812人(回復者55,658人、死亡者27人)である。感染者は軽症者が多く、死亡者は7月15日以降ゼロが続いている。

 蚊が媒介するデング熱も引き続き猛威を奮っており、今年の発生件数は8月24日時点で26,300件を超え、過去最大の感染者数を記録した2013年を上回るペースで増えている。デング熱感染拡大の一因として、在宅勤務常態化により住宅地付近の水たまりで繁殖した蚊に刺されるケースが今年は多いことが指摘されている。デング熱の流行時期は10月頃までで、殺虫剤散布などの対策が進められている。引き続き、新型コロナウィルスとデング熱、両方の公衆衛生対策が必要となる。

 

ゲンティン・シンガポール過去最悪の第2四半期、マリーナベイ・サンズ幹部の役割変更

 リゾート・ワールド・セントーサ(RWS)を運営するゲンティン・シンガポールの第2四半期発表が8月7日に行われ、第2四半期は1億6,330万シンガポールドル(約126億円)の純損失を計上した事を報告した。前年同期は約1億6,840万ドル(約130億円)の純利益があったが、大幅に落ち込んだ。同社は、世界的パンデミックによる「壊滅的な影響の結果」であったとコメントし、2010年1月にリゾート・ワールド・セントーサの施設がオープンして以来の「最悪の四半期業績」だったと述べた。
 
 証券会社ユニオンゲーミングセキュリティーズの見解では、RWSでの完全回復は、マカオが中国から観光流入するものと比較し、「国際観光」に「重点」を置くため、「数四半期先」となる見通しと報告された。同社アナリストのデクリー氏は「これまで、RWSの総訪問者数の75~80%を外国人旅行者が占める」「現在、RWSは、社会的距離の規制により50%のキャパシティで運営されている。さらに、カジノオペレーターは、新規会員権の発行を制限しており、既存のロイヤルティクラブ会員を歓迎することしか認めていない、これが現地訪問を制限しており、現在の短期回復には慎重な理由の一つとなっている」とコメントしている。

 またゲンティン・シンガポールの兄弟会社で、カジノクルーズ船を運営するゲンティン香港は新型コロナウィルスの影響により壊滅的な打撃を受けた。7月31日時点で、ゲンティン香港の債務残高は33.7億ドル(約3,579億円)に達している。ブルームバーグの報道によると、ゲンティン・グループ会長であるリム・コク・テイ氏が、ゲンティン香港の融資を支援することを個人的に誓約したと報じた。また、8月28日付で、リム・コク・テイ氏の息子で、ゲンティン香港の執行役員および副最高経営責任者、リム・ケオン・ホイ氏の取締役辞任を発表した。リム・ケオン・ホイ氏はその他にゲンティン・マレーシアの副会長兼エグゼクティブ・ディレクターを務めている。ゲンティン香港の動きはシンガポールに直接的影響はないものの、香港やマレーシアを含めたゲンティン・グループ全体の動きに注意が必要だ。

 マリーナベイ・サンズ(MBS)を運営するラスベガス・サンズ(LVS)の第2四半期報告によると、マリーナベイ・サンズ単体での純収益は96.7%減の2,300万ドル(約24.3億円)、そのうちカジノ収益はわずかに700万ドル(約7.4億円)で、調整後EBITDAはマイナス1億1,300万ドル(約119.5億円)であった。

 8月末の報道によると、MBSの首脳幹部陣の役割変更があり、マネージングディレクターを務めたジョージ・タナシェビッチ氏はシンガポール国内および海外での拡大業務に集中し、アンドリュー・マクドナルド氏とポール・タウン氏が日常業務を引き継いでいることが明らかとなった。MBSのコーポレートシニアバイスプレジデント兼最高カジノ責任者であるマクドナルド氏が、全てのゲーミング業務を監督、ポール・タウン氏はリゾート業務部シニアバイスプレジデントとして役職の中で全ての非ゲーミング業務を担当する。タナシェビッチ氏は親会社LVSの国際開発部マネージングディレクターとして、海外展開に携わり、MBSの法務、政府関連での業務、進行中の拡張計画には引き続き関与する予定である。

 MBSの新施設として、8月24日に、アップルが、シンガポール3店舗目をまもなくオープンする予定との発表を行った。このアップルストアの名称は「Apple Marina Bay Sands」で、マリーナベイの水上に設置された巨大な球体型の店舗は、特徴的な外観であるためオープン前から話題を集めている。


「Apple Marina Bay Sands」は近日オープン


 また、RWSとMBSではIRの拡張計画を予定しているが、これに関して、シンガポールの観光局長であるキース・タン氏は、新型コロナウィルスによる建設部門の混乱のため、シンガポールにある2つのIR拡張計画に遅れが生じることは「避けられない」と述べた。「先に経験したサーキットブレーカーの影響で遅延は避けられないだろうし、建設部門が直面している困難や労働者や労働力の問題で建設活動が全体的に鈍化している」と語った。