マカオの実績を元にアジアで勝ち残るIRを目指すギャラクシー

大谷イビサ(JaIR編集部)

 [関西]統合型リゾート産業展のオペレーター講演に登壇したのは、ギャラクシーエンターテインメントジャパン 最高執行責任者であるテッド・チャン氏。同社が手がけるマカオでのIRの実績を披露しつつ、大阪のIRを成功させるための鍵について解説した。

ギャラクシーエンターテインメントジャパン 最高執行責任者 テッド・チャン氏

IRはほかの地域のIRのコピーではない


 1988年に設立されたギャラクシーエンターテインメントグループ(以下、ギャラクシー)の親会社は建設資材企業。2002年、中国で唯一合法的にゲーミングが可能なマカオ政府からゲーミングのライセンスを取得し、スターワールドホテル、カジノ、クラブを運営するようになり、2011年にはコタイ地区に旅行や娯楽を目的とする巨大統合型リゾート施設である「ギャラクシー・マカオ」をオープンした。

 一連のマカオの成功に至るまでの経緯を説明したビデオの後に登壇したチャン氏は、「統一地方選挙を受け、RFCプロセスを開始したことに興奮している。われわれも今後、数週間にわたって積極的に参加する」と語り、大阪のIR開発に強い意欲を見せる。チャン氏が強調したのは、すべての利害関係者が緊密に連携しなければならないという点だ。また、IRの成功をローカルときちんと共有し、その成功を政府に対しても保証していく必要があるという。

 「IRは単にほかの地域のIRのコピーではないし、世界中から観光客を惹きつけなければならないし、日本人が訪れるための楽しい場所でなければならない。そのためには、日本の創造性、創意工夫、文化、革新を披露できるプラットフォームにならなければならないし、質の高い多様な雇用と地域の中小企業のための経済的な影響を生み出さなければならない」(チャン氏)。

 インバウンドを増やし、日本を先進的な観光国家にするために、IRは重要な役割を果たせる。そして、そのための最良のステージと言えるのが大阪だという。

 2018年、ギャラクシーが楽天インサイトと共同で行なった調査において、大阪はIRに賛成する割合が41%にのぼっているが、これはほかの地域に比べても高い。特に20・30代の若い世代はIRに対して好意的で、2025年を見据えると、こうした若手の教育や啓蒙は大きな課題になるという。これに対して、ギャラクシーは東洋大学と共同でIRについて学ぶ機会を提供しており、次世代のリーダーに向けたキャリア教育も行なったという。「1年目は素晴らしい成果を出せたので、今後もプログラムを強化していく」とチャン氏は語る。
 

成長著しいアジア圏のIRで大阪はどうやって生き残るのか?


 続いてチャン氏は、大阪のIRがアジア圏でどうやって勝ち残れるか?という説明した。まずギャラクシーが本拠を構えるマカオは、ゲーミングという観点でアジアのリーダーだ。シンガポールが5060億円、オーストラリアが4510億円、フィリピンが4150億円に対して、マカオは4兆1250億円となっており、突出して市場が大きい。このゲーミング総収益において、約6710億円をたたき出すギャラクシーは総収益で世界一を誇る。これはラスベガス・ストリップ全体の90%より大きいという。

 アジア圏のIR・ゲーミングを牽引するマカオ以外の地域もどんどん成長しており、特にシンガポール、韓国、フィリピンなどは観光客に対するインセンティブも大きいので、成功に結びつきやすいという。一方で、日本では収益の3割以上が税金となり、厳格な規制があり、地元住民はカジノへの入場料として6000円を払わなければならない。「大阪のIRを世界水準に引き上げるためには、価格ではなく、品質で勝負していかなければならない」とチャン氏はアピールする。

 その点、日本はもともと観光産業のポテンシャルが高いとチャン氏は語る。「豊富な自然やアトラクション、素晴らしい食べ物、豊かな文化、活気に満ちた都市、そして世界一流の交通ネットワークなど。これが他のアジア地域からすぐのところにあるので、観光業やサービス産業は絶好の成長産業となる」(チャン氏)。実際、訪日観光客は3100万人に達し、4兆7000億円以上の経済的なメリットをもたらした。そして、日本政府は2030年までに6000万人のインバウンド観光客を目指すというゴールを設定した。この受け皿となる世界水準のリゾート、ホテル、エンタテインメントの実現にはIRが必須となるという。

 インバウンド観光客の中心は東アジア(中国、韓国、台湾、香港)の諸国で、中華系だけで約半分を占める。そして2022年までに中国では2億人以上の中流階級が生まれ、タイ、インドネシア、マレーシア、ベトナムなどのアジア新興国でも起こる。「アジアの成長が世界の観光市場に大きな影響を与える中で、日本は主要な受益者となる」とチェン氏。こうした中流階級が消費を目を向けるようになるとIRがターゲットとする富裕層へと成長する。洗練さと社会的な影響力、柔軟さを兼ね備えたこうした「プレミアムマス」と呼ばれる富裕層を満足させるのがIR成功の鍵になるという。

アジアの「プレミアムマス」を満足させるのがIR成功の鍵
 

ギャラクシー・マカオと大阪夢洲の敷地面積はほぼ同じ


 「大阪が世界一のIRを目指すのであれば、世界でもっとも成功しているIRであるギャラクシー・マカオからいろいろ学べるはず」とチャン氏は語る。親会社が建設資材業をメインとしていたギャラクシーとして見れば、ゲーミングは未知の領域で、さまざまな課題と機会をもたらしたという。「モダンスタイルのIRが生まれる前、マカオはカジノホテルに支配されていた。しかし、調査を進めると、アジアの経済的な成長とともに、家族向け・ビジネス向けのIRを作る必要があることがわかってきた」(チャン氏)。こうして生まれたのがギャラクシー・マカオだ。

 2011年に開業したギャラクシー・マカオには5つの高級ホテル、3500以上の客室、120以上の飲食店、劇場、講演会場、シネコンのほか、8万㎡のウォーターアトラクションも構築されている。2011年のフェーズ1、2015年のフェーズ2の延床面積は100万㎡以上におよび、投資規模は約5500億円。47haという敷地面積のうち、開発されているのはまだ半分に過ぎず、1万6000人席のアリーナ、3万7000㎡のMICEスペースなどフェーズ3・4は現在進行中だという。そして、この47haというギャラクシー・マカオの敷地面積は、大阪夢洲の49haとほぼ同じだという。


夢州はギャラクシー・マカオとほぼ同じ敷地面積

 ギャラクシーは他のIRのやり方より、徹底的な顧客や市場、コミュニティの分析によって、ボトムアップでサービスや体験を構築しているという。日本進出においてはモナコで約150年にわたってリゾート施設を運営するモンテカルロSBMと緊密に連携しつつ、ホテルオークラ&リゾーツともパートナーシップも築いているとアピールした。

 最後、チャン氏は「責任あるゲーミング」への注力、資材調達や雇用における地域との連携、地元イベントへの協賛などの取り組み、IRにおける人材教育などギャラクシーの取り組みを披露。「ギャラクシー・マカオでは70%以上がノンゲーミングの職種で、800以上の職種で2万人以上を雇用している」(チャン氏)とアピール。「世界水準のIRを実践してきた私たちのビジネス哲学を通して、何百万もの顧客の支持を受けている。責任ある、持続可能なIRのために、これまで開発してきたことこそが成功の鍵。これを大阪にももたらしたい」と語って、セッションを締めた。

ギャラクシーエンターテインメントジャパン