【新型コロナのIRへの影響レポート】ラスベガス 8月6日版 (2/3)

二上葉子

米国ゲーミング協会は連邦議会へ支援呼びかけ、第2四半期も厳しいオペレーター

 ラスベガスのあるネバダ州では、6月4日からカジノを再開していたが、コロナ禍以前の売上に復調するには時間がかかる見込みだ。ネバダ州ゲーミングコントロールボードの最新の報告によると、ネバダ州のカジノは再開月の6月のカジノ売上高は5億6,680万ドル(約601億円)で昨年6月と比較して約45.6%減少した。6月に発生した課税収益に基づいて、7月中に約344,000ドル(約3,649万円)の手数料を税収とした。この税収は、昨年7月の5,650万ドル(約60億円)と比較して99%以上減少である。

 ネバダ州以外も含め、アメリカのゲーミング業界全体は厳しい状況にあるが、米国ゲーミング協会(AGA)は、連邦議会へ「ゲーミング業界への最大の支援」を呼びかけた。AGAのCEOビル・ミラー氏は、HEALS法(アメリカの景気刺激策)について、事業者への賠償責任保護や、ゲーミング市場に対する支援の重要な条項が含まれていることを認識していると言及した上で、従業員の雇用維持、一般事業、PPEの税額控除、旅行・観光産業の再開を目標とした条項を盛り込むことを議会に求めた。

ゲーミング業界は苦境に立たされている


 ラスベガス拠点のカジノオペレーターは、第2四半期の3分の2以上の期間、カジノを閉鎖していたため、厳しい決算発表が続いた。

 MGMリゾーツは、7月30日に第2四半期の発表を行い、営業損失は10億ドル(約1,044億)に急落、収益はアナリスト達の予想を下回り、純収益は前年同期比91%減の1億5,100万ドル(約157億円)であった。同日にビル・ホーンバックル氏を正式に最高経営責任者兼社長に選出したことを発表。 同氏は2020年3月に前会長兼CEOのジム・ムーレン氏が退任して以来、CEO兼社長の代理を務めてきた。
 
 またMGMリゾーツは、7月27日に、エンターテイメントとスポーツ部門従業員の大多数を、8月31日付で解雇することを通知した。対象者は各ホテルのエンターテイメントディレクターや、会場のマネージャー、係員等で数は明らかではない。解雇された従業員は、11月29日まで助成金を申請する資格が付与される。

 ウィン・リゾーツは、8月4日に第2四半期決算発表を行い、第2四半期営業収益は8,570万ドル(約90.6億円)で、前年同期の営業利益16.6億ドル(約1,755億円)から94.8%(15.7億ドル:約1,659億円)減と急落したことを報告した。7月23日に従業員の一時帰休と平日の閉鎖を発表。同社は5月末まで約30,000人の雇用を維持し、カジノ閉鎖期間中も賃金をすべてを支払ってきたが、カジノ再開後の需要が低下しているため、実施に踏み切った。ビジネスでの戻りの遅さを反映し、アンコールのスパとサロンは、平日の閉鎖を決定している。また、同社のホテル運営のエグゼクティブ・バイス・プレジデント、ラメシュ・サドワニ氏は7月末で退任した。

 また、ウィン・リゾーツの前会長、スティーブ・ウィンに対するセクハラ訴訟に関して、連邦判事は、ウィン氏からセクハラを受けたと主張する9人の匿名の女性からのウィン・リゾーツ社に対する訴訟を7月に却下した。

 ラスベガス・サンズは、第2四半期の売上高が97%減少。同社は4月、5月、6月までの純収入が9,800万ドル(約103億円)と報告しており、2019年の同期間に報告された33億ドル(約3,481億円)以上の収入から急降下したことを報告した。
 
 サンズ経営陣は7月22日の決算説明会で、サンズのラスベガスカジノの回復はアジアより時間がかかる可能性があると述べ、このビジネスを推進するためにはコンベンションへの依存度が高いことを強調した。最高執行責任者(COO)のゴールステイン氏は、「サンズは2020年の残りの期間、コンベンションおよびバンケットビジネスが『ゼロ』になると予想している」と説明している。  
 
 また、ラスベガス・サンズは、少なくとも10月31日まで雇用賃金支払いを継続することを発表。ネバダ州の6大ゲームオペレーターの中で唯一、従業員を解雇していない会社となった。シェルドン・アデルソン会長は、アジアに比べて、ラスベガスが回復するまでには「もっと時間がかかるかもしれません」と述べ、ラスベガス低迷の長期化を予測している。

 シーザーズエンターテイメントは、エルドラドリゾーツとの合併が最終承認となり、世界最大のカジノ会社が誕生した。統合された会社は、シーザーズパレス、パリス・ラスベガス、プラネット・ハリウッド、フラミンゴ、リンクなどのラスベガス・ストリップ地区のIRを含む米国16州に、52施設を持つことになる。投資家カール・アイカーン氏は、エルドラドのCEOトーマス・リーグ氏が率いる合併後の会社の10%以上を所有する最大の単一株主となった。

 エルドラド社CFOを務め、現在は新会社のシーザーズエンターテインメントでCFOを務めるブレット・ユンカー氏は、会社統合によって実質的なシナジー効果が生まれることを強調する一方で、一部の人員削減が発生することについて言及。「私たちは、可能な限り思いやりと透明性を持ってそれを行うことを約束します」とコメントした。削減の規模や対象となる施設名や職務などは具体的にはしていないが、同社は約130億ドル(約1兆3,650億円)の負債を抱えているとされており、新会社がラスベガスの物件を売却する可能性があることも示唆した。

 シーザーズエンターテイメントがラスベガスに保有する多くの施設は再開しているが、バリーズ・ラスベガスは他施設に遅れて、7月23日再開となった。同施設はリンクホテルや、ハイローラー展望台、エッフェル塔展望台のゲーミングフロアについてリニューアルオープンとなった。

今年10月開業予定のサーカ・リゾート&カジノ「プール・アンフィシアター」のパース図

 コロナ禍にも関わらず、新たな施設誕生の動きもある。ラスベガスのダウンタウン地区に新たにオープンするサーカ・リゾート&カジノ「プール・アンフィシアター」が、10月末のオープンに先立ち、7月10日に公開された。同施設は、ラスベガスのダウンタウン地区、ストリップ地区の両方を見渡せるプール円形劇場「スタジアム・スイム」を売りにしている。プールに巨大なスクリーンが設置され、スポーツファンや日光浴客が、ゲームやあらゆる種類のエンターテイメントを観戦できるようになる予定である。

 一方で、カジノ売却の動きもあった。ゲーミング・アンド・レジャー社は、ラスベガスのストリップにある「トロピカーナ」カジノの売却に乗り出した。値付けは未だ無い状態だが、ラスベガスのストリップ地区35 エーカーとなる物件は高い価値を保持していると見られている。

 その他、ラスベガスに施設を持つオペレーターや関連企業の主だった動きとしては、7月13日に、ハードロック・インターナショナル会長のジム・アレン氏が、新型コロナウィルスのパンデミックの経済的影響が、同社のレストラン事業に顕著に現れていると述べ、苦戦を強いられている状況を語った。オンラインゲームと小売の収益は昨年の数字を上回っていると発言した。

 また、モヒガン・ゲーミングは7月24日に新しい経営陣を発表。モヒガン・サン・コネチカットの社長兼ゼネラルマネージャーとして20年近くモヒガン族に貢献したレイ・ピノー氏が最高執行責任者(COO)に任命された。ピノー氏はモヒガン・ゲーミング・エンターテイメントの地域社長を監督し、アメリカ、カナダ、韓国にある9不動産の運営を成功させることを目指す。また、モヒガン・サン社は、ラスベガスのヴァージンホテルラスベガスにあるモヒガンサン・カジノ内でのスポーツブック運営に、ベットフレッドUSAを指名した。同カジノは今秋オープン予定である。