和歌山IRに名乗りを上げるサンシティのアジア戦略

二上葉子

 統合型リゾート誘致を目指す和歌山県がおこなっていた事業提案公募(RFP)に応じた企業が5月1日に発表となり、和歌山IRへ参入意思があるのは、マカオなどでカジノ関連事業を営むサンシティ・グループ・ホールディングスの日本法人「サンシティ・グループ・ホールディングス・ジャパン」と、カナダの投資会社クレアベスト・グループの日本法人「クレアベスト・ニーム・ベンチャーズ」の2社と判明した。続く5月14日には、この2社とも参加資格審査を通過したと県が発表。事業提案に向け、一騎打ちの様相を呈している。

 北海道IR断念後に和歌山IRへ鞍替えしたクレアベストに対し、サンシティはIR誘致活動当初から和歌山への熱意を示している。サンシティ・グループ・ホールディングスが取るアジア地域のリゾート戦略から、サンシティにおける日本IRの位置付けを考察する。
「IRゲーミングEXPO2019」でサンシティが発表した和歌山IRジオラマ


ベトナム、フィリピン、ロシアでのIR事業参入 鍵はパートナーとの連携

 サンシティのブランドは、マカオのカジノにおけるジャンケット事業で最もよく知られ、ハイローラーと呼ばれるカジノで大金を使う富裕な顧客を抱えている。とはいえ、香港証券取引所での上場企業のサンシティ・グループ・ホールディングスは、マカオのギャンブル・ジャンケットからの利益を一切計上していない。サンシティ・グループの売上は主に不動産開発、不動産賃貸、ホテルやIRのコンサルティング、旅行サービスで構成されている。
 
 3月29日に発表されたサンシティ・グループの2019年の未監査年次報告によると、2019年を「アジア全体での拡大の年」と一言で表している。具体的には、ベトナム、フィリピン、ロシアでは統合型リゾート開発工事を進め、韓国や日本ではリゾート事業参入の足がかりを作る一年となった。各地での開発状況を順番に見てみよう。

■サンシティ・グループホールディングス 2019年 未監査年次決算(3月29日発表)
https://www.suncitygroup.com.hk/index.php/2020/03/29/suncity-group-holdings-limited-2019-unaudited-annual-results-update-hoiana-phase-1-to-open-in-2021-preview-in-summer-2020-entered-philippines-market-to-co-develop-westside-city-project-suncity-well/?lang=en

  サンシティは、ベトナムでの「ホイアナ」のIR開発において、VMSインベストメントグループ、ベトナムのビナキャピタルグループとの合弁事業で建設を進めてきた。会社の成り立ちがカジノでのジャンケット事業者であるサンシティにとって、このベトナムでの開発は、IR全体の運営事業者へと脱却を図るための重要な事業として位置づけられている。当初2020年夏に開業予定であったが、新型コロナウイルスの影響により2020年夏は限定的に内覧を行なうこととし、 2021年にグランドオープンする予定となった。

 ホイアナでは、サンシティが得意とするVIP向けサービスを前面に打ち出して、24時間バトラーサービスを提供する全室スイートの「ホイアナホテル&スイート」を含む、スイートやヴィラを提供する4つのホテルをオープンし、客室数にして1000室以上を有する予定である。カジノのあるビーチリゾートとして「東南アジアで最高のエンターテインメントハブ」を目指す意気込みだ。リゾート内には、有名なゴルフコース設計者ロバート・トレント・ジョーンズ・ジュニアによって設計されたゴルフコースが3月にオープンしており、早くもアジアのゴルフコースアワードを受賞している。
ベトナム・ホイアナでのIR完成予定図
 また、サンシティのフィリピンでのIR開発は、マニラのニノイ・アキノ国際空港からわずか8分ほどの場所にある、エンターテインメントシティの中心部でまさに杭打ち工事が進められており、2020年中に着工式を迎え建築作業が始まる予定だ。建設予定の5つ星のカジノホテルの総床面積は18万2,000平方メートルで、2023年より前に開業するとしている。IR全体では、最終的に2,000室の客室、ショッピングモール、オペラハウス、レストラン、劇場、ショッピングモールが追加される予定である。
 
 このフィリピンでの開発にあたり、サンシティはサントラスト・ホーム・ディベロッパーズを買収してフィリピンのゲーミング市場に参入。開発はトラベラーズ・インターナショナル・ホテル・グループと共同で行なっている。

 さらに、サンシティは2019年、ロシアのウラジオストクに拠点を置くカジノ「ティグレ・デ・クリスタル」として知られるロシア最大のIR事業上場会社であるサミット・アセントの単独の筆頭株主になり、早速ティグレ・デ・クリスタルでは、サンシティブランドのVIPルーム設置などの改修工事に入っている。こちらは2020年夏にも完了予定だ。また、韓国では釜山でのIR開発に向けて、仁川などでカジノを運営するパラダイスとMOU(法的拘束力のない基本合意書)を締結した。

 以上のように、ベトナム、フィリピン、ロシア、韓国でサンシティはIR開発に向けて積極的に動いているが、すべてに言えることは、ジャンケット事業者からIR運営事業者への脱却を効率よく行なうため、各地でパートナー企業と提携していることだ。
 
 和歌山IRにおけるパートナー企業に関して、サンシティの広報担当者はアジアのカジノ産業メディアGGRAsiaの取材に対し、「和歌山プロジェクトについて、現在、サンシティグループホールディングスジャパンにはIR入札のパートナーはいないが、和歌山IRのより良い長期的な発展に貢献できるパートナーとして、適切な候補者を検討している」とコメントした。

Suncity interested in right-fit partners for Japan IR bid
By GGRAsia May 6, 2020
http://www.ggrasia.com/suncity-interested-in-right-fit-partners-for-japan-ir-bid/

候補地の和歌山マリーナシティ

拡大方針を続けるサンシティ、新型コロナウィルスの影響は?

 サンシティにとって、各地のIR開発のための大規模投資が続く中で、本来であれば2020年からベトナムやロシアでは回収フェーズに移行するはずであった。しかし、ベトナムの正式開業が後ろ倒しとなるなど、新型コロナウィルスの影響は免れえない状況である。年次報告でも「コロナウイルスの正確な期間を決定することはまだ時期尚早。したがって、完全な財務上の影響を見積もることは困難」と述べている。

 全世界的な観光産業停滞の中で、サンシティのアルヴィン・チャウ会長は株主に対し、「数年後、サンシティの統合型リゾートのポートフォリオはアジアの主要な管轄区に広がり、先行する競合他社に匹敵することになると想像している」とメッセージを寄せ、現在の拡大方針を続けた先に、サンシティがアジアにおける有力IR事業者となる将来像があるとした。

 そのほか、サンシティは和歌山以外にも、2019年に沖縄・宮古島の土地を取得し、ホテルプロジェクトを計画している。敷地面積は10万8,799平方メートルに及び、40棟のヴィラと客室数100以上のホテル、プール等を建設する予定だ。この宮古島の計画はカジノのあるリゾートではないが、和歌山IRとも連携する観光アセットとして機能するはずだ。サンシティがアジア全域でIR開発を積極的に進める中で、和歌山IR、さらには沖縄でのリゾートはアジア全体の一角として、地域色を打ち出したものとなるであろう。

 和歌山IRの選定プロセスでは事業者は8月までに事業計画を提案し、県は11月中旬に事業者を決定するスケジュールだ。サンシティが積極投資をしているアジア各地での新型コロナウィルス感染拡大が、和歌山での計画にまで影響を及ぼすのかどうか。各地での今後の動静を見守りたい。

サンシティグループ
https://www.suncitygroup.co.jp/

和歌山県IR推進室
https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/020100/ir/top.html