ラスベガスの明日はどっちだ!? マカオが示す次のフェーズ

JaIR編集委員・玉置泰紀

 統合型リゾート(IR)ニュースは新型コロナウィルスがパンデミックに突入して以来、日に日に深刻なものになってきている。

 日本においては、大阪府IR推進局が、実施方針(案)や募集要項(RFP:事業者選定)を修正。事業者選定の書類提出期限を2020年4月から7月頃に、選定時期を6月から9月にそれぞれ3ヵ月延期した。また、土地の事業者への引き渡しも2021年秋から2022年春に延期。「大阪・関西万博前の開業を目指す」(部分開業)を断念し、その条項も削除した。横浜市も、IR実施方針や募集要項の公表を2ヶ月間延期すると発表。長崎県は「九州・長崎特定複合観光施設区域整備実施方針(素案)を(案)に変更するにあたり、事業者選定の募集要項の公表を春から夏とした。

 まだIRができてもいない日本ですら、このような停滞状況に追い込まれているので、ラスベガスやマカオ、シンガポールなどはなおさらだ。実際、世界各地にあるIRは休業や大幅な事業縮小に追われている。


ラスベガスがマカオから学べること マカオとの違い

  4月17日のラスベガス・レヴューに掲載されたジェイソン・ブラセリン氏とリチャード・N・ヴェロッタ氏の連名記事「What Macao's experience can teach Las Vegas(マカオの経験は何をラスベガスに教えられるか?)」で興味深いのは、少なくとも4月30日までシャットダウンされているラスベガスは、15日間のシャットダウン後、2月20日に再開されたマカオに、今後のシナリオが見ることができるという見立てだ。

What Macao's experience can teach Las Vegas
By Jason Bracelin and Richard N. Velotta Las Vegas Review-Journal April 17, 2020
https://www.reviewjournal.com/business/casinos-gaming/betting-on-the-future-what-macaos-experience-can-teach-las-vegas-2006920/

 マカオが再開された際、スペースは狭まり、人の動きも制限された。カジノへ入場するには、体温チェックを受け、携帯電話のアプリから健康申告書を提出し、もちろんマスク着用も必須になった。スロットマシンとテーブルは半分が閉じられていて、カジノによっては、通常7人掛けのバカラが3人上限にされている。チップもプレイヤーが触れた後、必ず拭かれているという。

 ラスベガスがこのような形で徐々に復帰するのだろうか? 記事によると、マカオのカジノへの収益の依存度は実に90%にのぼる。対照的にラスベガス・ストリップの収益は、ネバダ大学ラスベガス校(UNLV)のCenter for Gaming Researchによると、カジノが35%で、飲食が24%だ。ちなみに2019年のラスベガスの訪問者数は4950万人で、マカオの訪問者数は3940万人。マカオ公安警察の統計では、マカオへの訪問者の4人のうち3人は中国という単一国からだった。

 ここから分かるのは、ラスベガスを訪れる世界各国の観光客はマカオに比べると、カジノだけが目的でない客が多く、より強く「国際都市の役割」を求められているということだ。

 もちろんマカオの現状も決して良いわけではない。Gaming Inspection and Coordination Bureauが今月発表した数字によれば、2020年第1四半期は、マカオの賭博収入は38億ドル(約4100億円)で、1年前から60%減少で、最悪の月はカジノの操業停止の2月だった。2月は通常、旧正月のお祭りでいわばかきいれ時なのだが、収入は87.8%減の3億8710万ドル(約417億円)に急落したという。ウィン・マカオ、アンコール・マカオ、ウィン・パレスを含むウィン・リゾーツが4月初旬、証券取引委員会に新型コロナウィルスが同社に与えている影響の概要を記した文書によると、「閉鎖期間中、1日あたり約250万ドル(約2.7億円)の現金営業費用が発生、これは1日あたり約50万ドル(約5400万円)の現金支払利息を除いたものである」とある。同様に、ラスベガスのIRを運営し、マカオに拠点を持つラスベガス・サンズやMGMリゾーツも厳しい数字が想像される。

 記事中では9月第一週に始まるアメリカンフットボールの最高峰、NFLへの希望が触れられている。ラスベガスで建設中のアレジアント・スタジアムが今年のシーズンにお披露目で、今年1月にラスベガスが本拠地になったラスベガス・レイダースが、街の復活のブーストになるという期待だが、これも新型コロナウィルス次第なのは言うまでもない。

 いずれにせよ、ラスベガスに再び火が灯るときは、マカオ同様の安全策がとられるだろうと予想する。MGMは体温のスクリーニングをすることを表明しており、ラスベガス観光局のCEO、スティーブ・ヒル氏は、清潔さ、公衆衛生、安全性を重視することを期待していると述べ、「お客様を大切にしているという感覚は、お客様の健康も含めて、デスティネーションがどのように運営されているかの重要な部分になる」と語ったそうだ。


 経済再開と閉鎖のはざまで揺れるラスベガス

 今や、ラスベガスは存亡をかけて、再開のタイミングを探っている。ゲーミングのウェブサイトであるヨゴネット(Yogonet)では、ラスベガスのキャロリン・グッドマン市長の「ラスベガスは死ぬ前に再開する必要がある」という言葉を紹介している。

"Las Vegas needs to reopen before it dies," mayor says
by YOGONET April 16, 2020
https://www.yogonet.com/international/noticias/2020/04/16/52952-las-vegas-needs-to-reopen-before-it-dies-mayor-says

 ネバダ州のスティーブ・シソラック知事は民主党だが、経済の再開には否定的で、このことにグッドマン市長は強く反発している。「私たち皆が一生懸命に努力して築き上げてきた業界、コンベンション、観光事業を事業の閉鎖が殺します。私たちが事業再開を長く待つほど、回復することが不可能になります」と表明していて、5月に再開されるか否かが大きな焦点になっている。シソラック知事は30万人の失業申請に大きなショックを受けており、グッドマン市長は現在のネバダ州の失業者を90万人とみている。

 21日付のラスベガス・レヴュージャーナルで紹介されているシソラック知事のステートメントは「ラスベガスの街にスイッチを入れて(ビジネス再開の)電気をつけることもできますが、世界中の地域の経験と専門家たちが予測するように、ガイドラインに基づいた方法でこれを行わなければ、2~3週間後には新型コロナウィルスによる高波のような感染の打撃を再び受けることになるでしょう」だ。「緊急事態はまだ終わっていません」というメッセージだ。

No firm date to start reopening Nevada, governor says
By Las Vegas Review-Journal April 21, 2020
https://www.reviewjournal.com/news/politics-and-government/nevada/no-firm-date-to-start-reopening-nevada-governor-says-2011476/