横浜IRに日本企業として初参入したセガサミーホールディングスの勝算

大谷イビサ(JaIR編集部)

 1月29・30日に開催された[横浜]統合型リゾート産業展で、IRオペレーターとして横浜市のIRに参入を表明したのが総合エンターテインメント企業のセガサミーホールディングスだ。日本企業として初のIRオペレーター参入だけに、セガサミーホールディングス 代表取締役社長 里見治紀氏が登壇したオペレーター講演は、ひときわ高い注目度を浴びていた。

セガサミーホールディングス 代表取締役社長 グループCOO 里見治紀氏

外資系IRオペレーターに勝つための三本の矢

 イメージビデオの後に登壇した里見氏は、まず横浜市の来訪者数の85%が日帰り客で、滞在時間が4時間に過ぎないという数字を披露。「横浜アリーナでコンサートを見て、中華街でご飯を食べ、みなとみらいのモールをのぞいて帰ってしまう。この事実こそ、横浜の課題であり、ポテンシャルである」と語る。2019年に人口は減少に転じた横浜市は、2027年には財政赤字が660億円に拡がってしまうと予想されている。こうした課題は横浜市だけではなく、少子高齢化が進み、経済成長の鈍化した日本全体の大きな課題になると里見氏は指摘。横浜市の持つ自治体としての課題を共有していると言える。

 こうした課題を解決する一助として、セガサミーはどのようなIRを目指すのか。もっとも重要なのはMICE、ホテル、劇場、テーマパーク、商業施設、カジノなどを集約したIRを中心に世界中から人を集め、横浜市内の観光地や飲食店、近郊の箱根や鎌倉などにつないでいくこと。そして、豊富なエンタテインメント、魅力的な観光ルート、充実した飲食・宿泊施設を用意し、いかに横浜市内に長く滞在してもらうかが大きな鍵になる。「われわれの試算では、年間で3000万人くらいの人が訪問し、直接雇用でも2万3000人となる。税収も1000億円近く集められるのではないか」と里見氏は語る。

集める、つなぐ、とどめるの流れ

 横浜のIRが持続的に成功するため、セガサミーホールディングスが貢献できる点として、里見氏は「日本市場の現実を熟知した事業計画」「安心・安全を担保した運営計画」「日本文化の発信と、環境負荷を考慮した開発計画」の3点を挙げた。スケールと実績を推す外資系IRオペレーターに勝ち、横浜IRを実現するための「三本の矢」とも言えるものだ。

「勝つべくして勝つ構造を盛り込んだ事業計画」とは?

 まず「日本市場の現実を熟知した事業計画」を実現するために、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンを数年でV字回復させた立役者である森岡毅が率いるマーケティンググループ「刀(かたな)」と協業を行なう。「(USJは)派手なイベントで再生させたようなイメージがありますが、刀には数学のプロフェッショナルが集まっている。『勝つべくして勝つ構造を盛り込んだ事業計画』がキモであると考えている」と里見氏は語る。

マーケティング集団「刀」の招聘

 勝つべくして勝つ構造を盛り込んだ事業計画とはなにか? 「まずはコンセプト。どんな人が、どうやって、なにを目的で来るのか。コンセプトを作り、みなさんの心の中にブランドとしてすり込んでいくことが重要」(里見氏)。次は、どれだけの人が来るのかの需要予測。同社はすでに2万人のアンケートをとっているが、実際は「来たい人」と「実際に来る人」のギャップが大きいという。しかし、刀はここに必要な係数に独自の知見があり、実態に近い需要予測が可能になる。

 これらを用いて現実的な事業計画を作っていくのがセガサミーのアプローチ。「こうしたプロジェクトはもちろんリーダーの強い想いがなければ成功しないのですが、想いだけが強いと過剰投資になる。投資して回収できないのが一番怖い。シーガイアを運営しているので、過剰投資の怖さは熟知しています」と述べ、マーケティングに即した事業計画の重要性をアピールした。

 そして、横浜のIRにおいては同社が韓国・仁川(インチョン)で展開している統合型リゾート「パラダイスシティ」のノウハウをフル活用する。規制により韓国人はカジノに入れないが、国内最高級クラスにもかかわらず、ホテル利用者の6割は韓国人が占めるという。日本人のVIPはもちろん、こうしたパラダイスシティの利用者も横浜のIRに誘致したいという。

 日本企業であるセガサミーホールディングスと海外のオペレーターとの差別化ポイントは、パラダイスシティの運営ノウハウを持った日本人の管理職を横浜IRに投入できる点。もちろん、日本の税制や法制にも的確に対応できる点も大きいという。

独自の依存症研究や京都吉兆とのコラボ ついにパースも披露

 

 2つ目の「安心・安全を担保した運営計画」に関しては、まず独自の依存症研究と対策案を推進する。具体的には京都大学 大学院 医学研究科の村井俊哉教授とともに、ギャンブル依存症の予防研究を産学協同で実施する。

「ほとんどのギャンブル対策は依存症になった人のリカバリーに特化している。一方で、われわれの研究は予防に特化しています。入り口対策をやってからこそ価値がある。既存のオペレーターは売り上げが下がるのでやりたがらないが、新参者のわれわれだからこそ力を入れられる」(里見氏)

 また、チップの偽造や盗難といった不正対策に関してはテクノロジーを駆使して、チップ自体をデータで管理するシステムを開発している。さらに、セガサミークリエーションは世界でもっとも厳しい規制のあるネバダ州のゲーミングライセンスをスロットマシンの製造業者として取得している。

 3つ目の「日本文化の発信と、環境負荷を考慮した開発計画」に関しては、まず老舗料亭である京都吉兆ともに究極の日本食文化の発信拠点を開発していくという。「東京は世界でももっともミシュランの星の多い都市ですが、横浜にはいくつあるでしょう。5つ星ホテルもありません」と里見氏は指摘する。

 これに対しては、京都吉兆のプロデュースの元、横浜IR内に本格的な料亭旅館を開発する。ミシュランの3つ星、高級旅館・料亭としても5つ星の取得を目指すという意欲的なプロジェクトで、日本の伝統芸能、温泉、森林浴、お茶会などに注力し、長期滞在を促していくという。

京都吉兆とのコラボ

 さらにノーマン・フォスター氏が率いる著名な設計事務所である英フォスター+パートナーズと戦略的業務提携を行なった。フォスター+パートナーズは、ロンドンの30セント・メリー・アクスやベルリンの国会議事堂など、数々のメモリアルな建築物を手がけており、最近ではアップルの本社が有名だ。「彼らの最大の強みは見た目ではなく、環境にやさしい設計。自然エネルギーや熱効率を徹底的に分析している」と里見氏は高く評価。

 イギリスの会社ではあるが、横浜生まれの日本の設計者が担当。完成予想図に当たるパースとイメージムービーも披露された。複数の三角形から構成された多面体ビルがユニークで、ベイブリッジからの風景もはるか向こうの富士山と重なり、非常に印象的だ。

披露されたIRのパース

文化・芸術分野でのセガサミーHDの横浜への貢献

  里見氏は、「環境を軸に、経済や文化・芸術による新しい価値・賑わいを創出し続ける都市を実現する」というSDGs未来都市・横浜のビジョンにどのように貢献できるかを説明。おもに文化・芸術分野でのセガサミーHDの活動を披露した。


 まずは巨大なインキュベーションセンターをMICEの横に作り、ベンチャーを集約する。「今は横浜から東京に就労する人が多いが、その逆をやりたい。横浜に移住して、横浜で起業する人をIRを核に増やして行きたい」(里見氏)。あわせて依存症対策や働き方改革、多様性のある環境、LGBTイベントの支援など、セガサミーホールディングス自体のCSR活動についても披露した。

 また、ドローンとダンス、音楽のコラボレーションになる「Inifinity Ball」のイベントを昨年横浜で開催したことを報告し、「IRができれば、こんなショーが毎日実現できる」とアピールした。セガサミー文化芸術財団の活動として馬車道に「Dance Base Yokohama」をオープンさせたほか、コンテンポラリーダンスで世界的に有名な「NDT(ネザーランド・ダンス・シアター)」を招聘したことも披露した。

 最後、里見氏は「目を閉じて、SDGsでゴールと区切られた2030年に横浜が未来都市になっているところを創造してほしい。このイメージを実現すべく、横浜と一緒に努力していきたい」とまとめ、登壇を終えた。

■関連サイト
セガサミーホールディングス
https://www.segasammy.co.jp/japanese/