シンガポールの事例で見る「IRで地元企業は潤うか?」

二上葉子

 国内でIR誘致を表明している自治体がもっとも期待しているのが「地域への経済効果」だ。直接的にはカジノ売上にかけられる高い税金が自治体収入として組み込まれる見込みだが、同時にIRが地元経済界にもたらす波及効果も非常に大きくなると言われている。ここではシンガポールでの事例をもとに、日本の地元企業のビジネスチャンスがどこにあるのかを探りたい。

シンガポール市街地から見たマリーナベイ・サンズ


マリーナベイ・サンズの地元調達率は?

 シンガポールのIRでの調達に関する実態を知るため、マリーナベイ・サンズで製品やサービスのソーシング、管理、調達全般を担当する部門を率いるスリダー・カンダーダイ氏に話をうかがった。

マリーナベイ・サンズ 調達・サプライチェーン担当バイスプレジデント スリダー・カンダーダイ氏

 総床面積60万平米を誇るマリーナベイ・サンズの広大な施設を運営するにあたり、サンズが1年間に支出する総額は約580億円になるという。2018年にサンズと取引したサプライヤーは1854、取引した調達品目やサービスは4万3000以上だ。調達品目の内訳を見せてもらったが、宿泊客に毎日提供する飲食物や日用品、施設を美しく保つための清掃サービスやクリーニング、またホテルや会議室に必要なデジタル機器や什器類などの品目が目立っていた。

 IRは「カジノ」のイメージから、ゲーミング機材やセキュリティ関係の企業には参入機会があるようにも思えるが、実際にはIR施設の大部分はホテルやレストラン、MICE施設であるため、サプライヤーの多くはカジノとは無縁の業態である。そして、サプライヤーの多くは、地元の中小企業が占めている。

 マリーナベイ・サンズの場合、「シンガポール地元企業からの調達率は92%になる」とカンダーダイ氏は語る。サンズの試算によると、横浜にIR施設を開業した場合の年間支出は600億円を超える見込みだ。IRは想像以上に多くの日本企業、とりわけ地元の中小企業に機会をもたらすことになる。

■関連サイト
マリーナベイ・サンズ
https://jp.marinabaysands.com/