IR誘致を狙う大阪府・市、横浜市、長崎県では現在IRコンセプト募集が行なわれているが、この日本型IRのモデルとなったのが、シンガポールのIRだ。来年で開業10年を迎えるシンガポールのIR施設「マリーナベイ・サンズ」での取材をもとに、今後の日本型IRの具体像をとらえてみたい。
マリーナベイ・サンズ 自然光を取り入れたホテルエントランスフロア
ラスベガス・サンズが運営する「マリーナベイ・サンズ」は、全体の敷地面積が約19万平米(東京ドーム約4個分) 、延床面積で約60万平米を誇る。そのうち、IR施設の収入の要であるカジノフロアは、シンガポール政府の規定面積内の1万5000㎡以下に抑えられており、延床面積全体に占める割合はわずか2.5%ほどにすぎない。
日本型IRの場合は、IR実施法の施行令によって、カジノの延床面積はIR全体の3%以下とパーセンテージで制限されている。面積で制限するシンガポールも割合としてはカジノエリアが全体の3%以下でほぼ同じ。この面積3%以下のカジノでの売り上げでIR施設全体を潤す仕組みだ。他にはホテル、MICE施設、ショッピングモール、劇場、ミュージアム、展望プール、ナイトクラブなどのカジノ以外のエリアが敷地の大半を占める。
数多くの高級ブランドが並ぶIR内のショッピングモール(写真提供:マリーナベイ・サンズ)
ショッピングモールの一角にひっそりとあるカジノ入口
カジノの入口にたどり着いた後も、入場ゲートでは非常に厳しい制限が掛けられ、自国民や永住権保有者はIDカード提示の上、入場税150シンガポールドル(約1万2000円 *開業当初は100シンガポールドル)を納入する必要があり、外国人はパスポートの提示が求められる。そして、ID照合で入場を許可された人だけが、カジノフロアの中へと入れるのである。
24時間営業のカジノフロア(写真提供:マリーナベイ・サンズ)
横浜市のコンセプト募集(RFC)では、このシンガポール型にならって、IR施設のカジノ設置要件として、「IR区域全体のコンセプトと調和し、他の施設とバランスの取れた規模、デザイン、配置となっている」「20歳未満の者等が利用する主動線から隔離された適切な配置計画、デザイン等」の項目が設けられた。マリーナベイ・サンズではカジノを目的としない限り、カジノフロアにまったく気付かないまま滞在可能だが、日本のIRでもカジノフロアが極力目立たない形となるのは間違いない。
日本にIRを導入するにあたり、ギャンブル依存症対策は誰もが気になる点だが、シンガポールでは対策による成果がきちんと表れているのだろうか? マリーナベイ・サンズの「責任あるギャンブル・プログラム」の管理・開発を統括するジョセフ・バファリーノ氏は、「シンガポール国民のギャンブル依存症率は、IR開業前の2008年では2.9%だったが、2017年では0.7%にまで減少した」と意外な数字を教えてくれた。開業後に著しく減少したのは不思議に思えるが、これこそギャンブル依存症対策が「政府、機関、事業者、また個人の間でも行なわれている結果」なのだと言う。
マリーナベイ・サンズ 責任あるギャンブル担当ディレクター ジョセフ・バファリーノ氏
シンガポールではカジノ開業を機に、これまで可視化されていなかったギャンブル依存症を社会全体で認識するようになり、制度もできたことで依存症の人が「必ず助けを求められる状況になったのだ」とバファリーノ氏。日本でも2018年に「ギャンブル等依存症対策基本法」が制定されたが、日本で将来カジノを適切に楽しむ環境を作るには、シンガポールの事例を参考にした、厳重かつ細やかな対策が必要だと言える。
■関連サイト
ラスベガス・サンズ
http://sandsjapan.com/
マリーナベイ・サンズ 自然光を取り入れたホテルエントランスフロア
日本型IRの参考となるマリーナベイ・サンズ
シンガポール政府は2005 年に IR 導入を決断し、事業者選定の上、2010年に「マリーナベイ・サンズ」と「リゾート・ワールド・セントーサ」、2か所のIR施設開業に至った。ラスベガス・サンズが運営する「マリーナベイ・サンズ」は、全体の敷地面積が約19万平米(東京ドーム約4個分) 、延床面積で約60万平米を誇る。そのうち、IR施設の収入の要であるカジノフロアは、シンガポール政府の規定面積内の1万5000㎡以下に抑えられており、延床面積全体に占める割合はわずか2.5%ほどにすぎない。
日本型IRの場合は、IR実施法の施行令によって、カジノの延床面積はIR全体の3%以下とパーセンテージで制限されている。面積で制限するシンガポールも割合としてはカジノエリアが全体の3%以下でほぼ同じ。この面積3%以下のカジノでの売り上げでIR施設全体を潤す仕組みだ。他にはホテル、MICE施設、ショッピングモール、劇場、ミュージアム、展望プール、ナイトクラブなどのカジノ以外のエリアが敷地の大半を占める。
数多くの高級ブランドが並ぶIR内のショッピングモール(写真提供:マリーナベイ・サンズ)
主動線から隔離されたカジノ
実際、マリーナベイ・サンズに足を踏み入れてみると、ホテル、ショッピングモール、会議場などのいわゆる非ゲーミングエリアが広がっており、一見するとカジノエリアがどこにあるのかわかりにくい構造に思える。ラスベガスの多くの施設がホテルロビーを抜けるとすぐにカジノがあり、敷地内のどこへ行くにもカジノを必ず通る構造になっているのとは対照的だ。このようにあえて主動線から外してカジノを設置しているのは、シンガポール政府による規制のためである。ショッピングモールの一角にひっそりとあるカジノ入口
カジノの入口にたどり着いた後も、入場ゲートでは非常に厳しい制限が掛けられ、自国民や永住権保有者はIDカード提示の上、入場税150シンガポールドル(約1万2000円 *開業当初は100シンガポールドル)を納入する必要があり、外国人はパスポートの提示が求められる。そして、ID照合で入場を許可された人だけが、カジノフロアの中へと入れるのである。
24時間営業のカジノフロア(写真提供:マリーナベイ・サンズ)
横浜市のコンセプト募集(RFC)では、このシンガポール型にならって、IR施設のカジノ設置要件として、「IR区域全体のコンセプトと調和し、他の施設とバランスの取れた規模、デザイン、配置となっている」「20歳未満の者等が利用する主動線から隔離された適切な配置計画、デザイン等」の項目が設けられた。マリーナベイ・サンズではカジノを目的としない限り、カジノフロアにまったく気付かないまま滞在可能だが、日本のIRでもカジノフロアが極力目立たない形となるのは間違いない。
責任あるゲーミングの取組み
シンガポールIRは、カジノを設置しながらもカジノを目立たせず、入場に非常に厳しい規制を設けるという、ある意味で矛盾をはらんだ仕組みである。それはギャンブル依存症対策を徹底して行なっていることの表れだ。シンガポール政府は入場税や入場回数制限、入場禁止などの社会的な措置でギャンブル依存症やマネーロンダリング等の不正を防ぎ、またカジノ事業者側にも「責任あるギャンブル対策プログラム」として、事業者主導での入場禁止などの制限や、啓蒙活動を義務付けている。日本にIRを導入するにあたり、ギャンブル依存症対策は誰もが気になる点だが、シンガポールでは対策による成果がきちんと表れているのだろうか? マリーナベイ・サンズの「責任あるギャンブル・プログラム」の管理・開発を統括するジョセフ・バファリーノ氏は、「シンガポール国民のギャンブル依存症率は、IR開業前の2008年では2.9%だったが、2017年では0.7%にまで減少した」と意外な数字を教えてくれた。開業後に著しく減少したのは不思議に思えるが、これこそギャンブル依存症対策が「政府、機関、事業者、また個人の間でも行なわれている結果」なのだと言う。
マリーナベイ・サンズ 責任あるギャンブル担当ディレクター ジョセフ・バファリーノ氏
シンガポールではカジノ開業を機に、これまで可視化されていなかったギャンブル依存症を社会全体で認識するようになり、制度もできたことで依存症の人が「必ず助けを求められる状況になったのだ」とバファリーノ氏。日本でも2018年に「ギャンブル等依存症対策基本法」が制定されたが、日本で将来カジノを適切に楽しむ環境を作るには、シンガポールの事例を参考にした、厳重かつ細やかな対策が必要だと言える。
■関連サイト
ラスベガス・サンズ
http://sandsjapan.com/