地元ボストンはIRをどう受け入れたのか? エバレット市長と警察署長に聞く

JaIR編集委員・玉置泰紀

 ウィン・リゾーツの最新IR「アンコール・ボストンハーバー」で11月中旬に実施されたプレスカンファレンスでは、事業者だけでなく、地元住民によるパネル・ディスカッションも行なわれた。ここではエバレット市のカルロ・デマリア市長とメイジー警察署長に地元がどのようにIRを受け入れたかを聞いた。

エバレット市のメイジー警察署長、カルロ・デマリア市長


エバレット市がIR誘致に至るまで

 ボストンのあるマサチューセッツ州のカジノ合法化は、2011年と全米の中で比較的遅い。事業者と自治体がパートナーを見つけるのが2012年で、自治体の中での事業者決定コンペが2013年、ここでたとえば横浜や大阪での事業者選定が行われる訳だ。そして、手を上げる自治体の組み合わせが決まった後、州・国のコンペが2014年に行なわれた。ここで確定する。日本をマサチューセッツ州だと考えれば、今は昨年の合法化から事業者の自治体選定に差し掛かっているタイミングだと思えばよい。誘致を表明し、RFCを行なっている大阪府・市、横浜市、長崎県などは、この状態だ。


ボストンと日本のIR誘致プロセスの比較

 アンコール・ボストンハーバーIRはボストンの中心地に隣接しているが、場所としては隣のエバレット市に位置する。エバレット市のカルロ・デマリア市長は、「IRが建っているエリアは、もともと化学工場の跡地で(*1800年代後半からモンサントケミカルなど化学会社3社が所有)、再開発をしようとマスタープランを立てていたところだった。そこに、事業者側であるウィン・リゾーツからエバレット市に声がかかった。同じころ、隣の市でも同様に事業者が立ち上がり、競合が始まった」と語る。

 結果として、エバレット市は住民投票を実施した。デマリア市長は「私はIRを誘致すべきか否か、その事業者はウィン・リゾーツが最適かの住民投票をすべきだと思った。通常のエバレット市の住民投票は火曜日なのだが、より多くの人に参加してもらいたいと思い、投票しやすい土曜日にした結果、投票者が増えて、私の市長選の投票よりも多かった(笑)。結果は86%の賛成で可決されたのだが、この結果は州が手を上げた各自治体の中で選ぶ際に、強い武器になった」と当時を振り返る。


環境問題、渋滞、犯罪・治安などの課題に地元と取り組む

 とはいえ、IRが実現するまでは難しい道のりで、当初は反対派の住民も多かった。デマリア市長は、「汚染されて30年放置されていた土地の再開発は難しく、ぜひウィン・リゾーツとの取引を成功させたかった。その準備のために多くのことをした。汚染された土を入れ替えるなどの環境汚染対策や、ボストンやこのあたりでは名物になってしまった渋滞への対応だ。コンサルタントも雇い、住民とも数多くのミーティングを持った。もちろん、プラス・マイナス両方の話をした。また、ゲーミング法を我々自信が良く理解する必要もあったし、たくさんの規制当局が関与してくるわけで、それへの対応も学ばなければならなかった」と語る。

 まず環境汚染の問題については、汚染除去を、税金や公的資金ではなく、ウィン・リゾーツ自らが行うと提案したことが住民の感情を動かした。最終的に、6800万ドル(75億5000万円)を費やして、84万トンの汚染土壌を敷地から撤去。さらに2.1ヘクタールの海岸で水底から土砂をさらう浚渫(しゅんせつ)作業を行ない、2.9ヘクタールの敷地を浄化した。その結果、隣を流れるミスティック川の自然も回復し、遡上するニシンの数は4倍近くも増えた。IRができることで環境保護が進んだと言える。

 渋滞の懸念に対しても、ウィン・リゾーツ自らが投資すると提案。8500万ドル(94億3000万円)をかけて、交通インフラを整備した。渋滞のひどかった道路を拡幅し、IRにつながるバスの専用レーンを作り、周辺の鉄道の駅を整備。ドックまで作って、新たな水上交通のためのシャトル船も建造した。しかも、従業員の駐車場は敷地内になく、バスで通勤し、自転車も活用されているという。スティーブン・メイジー警察署長は、「IRが開業してみると、実際に車でやってくる人は週末に集中しており、時間も夜の7時から8時が多く、地元の渋滞とは時間がずれていた」と語っており、問題にならなかったようだ。

シャトル船はアンコール・ボストンハーバーのすぐ横のドックに着く

 気になる犯罪や治安対策はどうだろうか? これに対してメイジー署長は、「結果的に犯罪率は上がっていない。犯罪予防は大事だが、ここは市街地とは孤立しているウォーターフロントで、隣は工業地区だ。小さな町だが、ここから犯罪が周辺に浸透してくることはない。何千人も集まり、24時間営業していれば何かしら起こるものだが、現状ではそこから想定されている事案よりも微々たるもので推移している」と語る。

 レスポンシブル・ゲーミング(責任あるゲーミング)については、「ゲーミング・エリアにはもちろん、21歳以下は入れない。また、IRからの税収の一部を子供たちへのゲーミングに関する教育に使っている。税金を使って子供たちの心を変えていく。もともと合法ではない不法なギャンブルが存在して問題だったが、ギャンブルがどうしてもなくならないのであれば、合法の場でのクリーンなものの方が良い。しかも不法なギャンブルと異なり、税収も入ってくる」とデマリア市長は語る。


IRのプランに賛同した市民団体も

 総じてIRはメリットが大きいという。デマリア市長は「渋滞については、5ヶ月近く経って、まったくないのには驚いている。工場跡地の浄化、雇用の創出も大きい。住民はもちろん、この新しい仕事のために引っ越してきた人たちもいる」とまとめる。

ハーバーから見たアンコール・ボストンハーバー

 IRのプランに賛同して、住民運動を展開したエバレット・ユナイテッドという市民団体のジョン・ハンドリー氏とトム・フィアレンティーノ氏もイベントに駆けつけた。ウィン・リゾーツ誘致に賛同したこの団体はいまでは60人近くになり、市民センターでの集会などを熱心に開き、啓発活動をしたと言う。賛同する店にワッペンを貼り、新聞広告も出した。

 市長や住民たち、受け入れ側のエバレット市の誘致までの経緯は、アンコール・ボストンハーバーの実現にきわめて重要だったと感じられた。日本のIRでも、特に反対派とのすり合わせが必要な横浜などでは、大いに参考になると思われる。

■関連サイト
ウィン・リゾーツ
http://www.wynnjapan.com/