ラスベガスの客室稼働率がずば抜けて高い理由はIR

JaIR編集委員・玉置泰紀

 一般社団法人日本観光・IR事業研究機構の視察セミナーで、ラスベガスに行ってきた。前回はラスベガスの歴史を振り返ったが、今回はノンゲーミングが主流になりつつあるラスベガスのIRの動向をレポートするとともに、ラスベガスの客室稼働率の高さとIRの関係について見ていきたい。


ノンゲーミングが上回るラスベガスのIR

 今回の視察は木曜に成田空港を出発して、現地では木曜日夜に入って、金曜日、土曜日を過ごして、日曜日朝に出発という旅程だった。週末ということで観光客が多く、特に土曜日の夜は、IRの外の通路でさえごった返している状況で、年齢層も若い人が多くファミリーも目立った。

 有名なべラージオ・ホテル前の噴水ショーは、周辺どこからでも見られるのだが、周りを囲むように周囲全てが鈴なりの観光客で埋まっていた。また、シーザーズ・パレスの人気ナイトクラブ「オムニア」は入場を待つ人たちが列を作っている。2015年にできた新鋭施設で、4400人のキャパがあり、中央には可動式の巨大シャンデリアがあって、レジデントDJが世界有数の人気DJという事もあり賑わっていた。

 また、フラミンゴ・ホテルの隣の路地140メートルを再開発した「リンク・プロムナード」は道沿いに人気ショップが集まり、空中のロープを滑空できる「フライリンク」や、突き当たりには、2014年に開業した世界一高い観覧車「ハイローラー」が鎮座している。高さ170メートルで世界第二位の「シンガポール・フライヤー」より2.7メートル高い。ゴンドラにはバーがあるものもあり、ウェイターがカクテルなどを作ってくれる。シルク・ド・ソレイユのKAや、シーザーズ・パレスの有名な、セリーヌ・ディオンのために作られた「コロセウム」のリニューアルこけら落としのキース・アーバンのライブなども体験し、ライブエンタメの最前線も見てきた。

 2021年には、マディソン・スクエア・ガーデンが新しい画期的なアリーナ「ラスベガス・スフィア」をオープンする予定。予算はなんと12億ドル(約1277億円)。2016年にオープンした最新型アリーナ「Tモバイル・アリーナ」が3億7500万ドルだったことを考えるといかに大規模なものかが分かる。スフィアは「球体」を意味するが、完成パースはまさに球体で、地球を思わせる。超巨大なディスプレイを擁した最先端技術の結晶になる予定。コンサート、スポーツイベントはもちろん、製品の発売イベントや授賞式なども行なわれる。このほかにも外へ広がるようにさまざまな工事も進んでおり、活気を感じる。

 IRにおいては、カジノを「ゲーミング」、それ以外のホテルやショップ、MICEなどを「ノンゲーミング」と呼ぶが、事業モデルでいえば、マカオやシンガポールはゲーミングの比率が高く、ラスベガスはむしろノンゲーミングが上回ってきている。これはラスベガスがカジノとしての歴史が長く、もっとも早くIRに目覚め、MICEを取り入れることによって、これからの可能性を見出したことが大きいだろう。

 また視察では、世界的に最先端のカジノライセンス法であると言われるネヴァダ州法の研究のメッカでもあるネヴァダ大学ラスベガス校も見てきた。1957年にスタートした同校は、200のプログラムを持ち、850人の講師を抱える巨大校で、男子バスケでも有名だが、やはりラスベガスにあるということで、ホテル経営やマネジメント、ゴルフのPGA、ゲーミングのマネジメントの人材をこの街のみならず世界に輩出をしている。

 昨年1月には、モダンな建築が目を引く「ホスピタリティ・ホール」が完成し、大学院大学として、最新のIR研究が続けられている。主要なオペレーターや現地のエキップメントなどで大成功をしているKONAMIなども同校には多く寄付をしている。こういったアカデミアの研究や人材に支えられ、早く進んでいる分、新しいチャレンジ、再投資も続くラスベガスは学ぶべき点が多いどころか、学ぶべきところばかりだ。


宿泊費の安さはIRによる収益の高さの証

 ラスベガス観光局によると、2019年のホテルの客室稼働率は89.6%。全米平均では67.1%なので、その高さがずば抜けている。2018年は88.2%だったので、さらに向上している。ちなみに、2018年度でラスベガスにつぐ数字はニューヨークで87.3%。サンフランシスコが81.9%、ロサンゼルスが79.6%となる。

 ひるがえって日本を見てみよう。観光庁の統計によると、2018年度の客室稼働率はリゾートホテルが58.3%、ビジネスホテルが75.5%、シティホテルが80.2%だ。旅館も入れた、すべての客室稼働率のトップの都道府県は東京で80.0%。IRの誘致候補地を見ると、2位は大阪で79.6%。神奈川県は7位で65.6%になる。様式別では、リゾートホテル(90.8%)、シティホテル(87.0%)、簡易宿所(62.5%)で大阪が3冠をとっており、ビジネスホテル(84.5%)と旅館(56.6%)は東京だ。

 ラスベガスの客室稼働率の高さは、観光地としての強さもさることながら、宿泊料の安さがある。2018年の平均だとラスベガスは1泊129ドル。これに対して、ニューヨークは262ドル、サンフランシスコは241ドルとラスベガスの倍以上。主要都市ではオーランドが127ドルで、わずかにラスベガスを下回っているくらいだ。これはIRによる収入の高さがものをいっている。

 宿泊料が全米主要都市の中でも低価格に抑えられているため、高い客室稼働率が実現され、こうした施設やエンタメへの投資が不断に続けられていることで、さらなる集客が実現している。つねに更新され拡充されている「テーマパーク」でありながら、MICE発祥の地として会議場・展示場もさらに拡大している。こうした“統合型リゾート”の最新形、理想形がやはりラスベガスだ。今後も、この街のダイナミズムは追いかけていきたいと思う。