和歌山と大阪にIRができれば、むしろ相乗効果が出せるはず

大谷イビサ(JaIR編集部)

 8月26日に和歌山市で開催された統合型リゾート(IR)のシンポジウム。基調講演、オペレーター講演の終了後は、仁坂吉伸 和歌山県知事のモデレートのもと、「大阪IRとの近接性と事業性の確保」というテーマでパネルディスカッションが披露された。登壇は、GT東京法律事務所の石川 耕治氏、経営共創基盤(IGPI)の村岡 隆史氏、そしてバリエール・ジャポンのジョナタン・ストロック氏、サンシティ グループの歐中安氏になる。


国、顧客、事業者、どの立場も大阪から近いことのデメリットはない

 まず仁坂知事はIRオペレーターとの話の中で「関西国際空港に近い」「整備済みのマリーナシティを利用できる」「マリンレジャーの聖地」「観光地である京阪神の近く」といったメリットを再認識したという。また、各オペレーターに「大阪になったら、和歌山はさよならなのか?」と率直に聞いたところ、「相乗効果があるから、大阪はあったほうがいい」という声が戻ってきたという。

 大阪と和歌山の近接性は、日本型IRとしてプラスなのか、マイナスなのか? GT東京法律事務所の石川 耕治氏はIR専門の法律家という観点で、「近接性という問題設定自体がおかしい」と指摘した。「規制当局である国としては、萩生田先生のお話の通り、法律には規制はない。国としての公益は、3つのIRが全部成功することなので、いい提案をしてきた地域がたまたま近くても問題ないはず」と語る。もちろん、顧客の立場としてはリピートを考えれば近い方がよいし、大阪と和歌山はIRの特徴としても差別化されるはずという意見だ。

 事業者の立場からしても、近接性はデメリットにならないという。「近くてダメだったら、ラスベガスもマカオも1つしかないはず。でも、多種多様な事業者が切磋琢磨することで、相乗効果が生まれている。要は近かろうか、遠かろうが、質の高い提案が重要」と石川氏は語る。

 経営共創基盤の村岡 隆史氏は、近畿圏での観光客の規模からしても、2つやることに問題はないという。「そもそも和歌山は大阪と同じことをやらないはず。近接性が問題になるのは市場規模が小さい場合だが、年間のインバウンド観光客や近畿圏の人口を考えれば、2つのIRを成立させることに関して規模として問題はない」と語る。一方で、大阪とまったく違うコンセプトを狙うことが和歌山IR成功の鍵だと語る。


経営共創基盤(IGPI) 村岡 隆史氏

 バリエールのジョナタン・ストロック氏も、「シンガポールのIRも計画当初は1つだけだったが、競争によって質が上がるということで、2つ作られることになった。マカオも50件以上のカジノが見事に共存している」と語り、近接性はむしろメリットになると指摘した。逆にベトナムでは離れた2カ所にIRがあり、競争環境が整ってないため、経済的に成立していないとのこと。「大阪と和歌山で異なるサービスを提供することが重要。大阪は都市型だが、海に近い和歌山はリゾート型になるだろう」と語る。

 サンシティの歐中安氏も、各氏の意見と同調しつつ、「地理的に異なっても、競合する部分は必ずある。でも、大阪の競争相手は和歌山ではなく、マカオであり、シンガポールである。むしろ、大阪と和歌山は手を取り合って大関西として、マカオやシンガポールと競争できる相乗効果を生み出すべき」と持論を展開した。


採算性の厳しい日本で成功するIRは「地元の人に喜ばれるIR」

 パネルの後半、仁坂知事から和歌山IRでの事業性について問われた村岡氏は、地元和歌山の南紀白浜空港の例を挙げ、「IRによる地方創生」を提案する。空港の民営化プロセスの中で経営共創基盤が投資している南紀白浜空港では、空港での顔認証を経て、ホテルや店舗のキャッシュレス決済できるようなイノベーティブなサービスを提供している。村岡氏は、こうしたサービスを即決できる経営体制や和歌山ならではの唯一無二へのこだわり、地元官民挙げて強調する体制がIRの事業性確保においても重要だとアピールした。

 事業性の鍵となる差別化ポイントについて、バリエールのジョナサン・ストロック氏は、「世界的にも革新的な場所にしていきたい。空港からの自動運転などを実現したい」と語り、和歌山の食文化や温泉、観光資源を有効活用していきたいとアピールした。一方、サンシティの歐中安氏は「和歌山に来る観光客は静けさと美しさを求めてやってきています。この静けさと美しさに、アクション的な要素を加えていきたい」と語り、エンタテインメントやスポーツなどを充実させ、東南アジアからの集客に注力したいという。

 オペレーターの話を聞いたGT東京法律事務所の石川 耕治氏は、「和歌山の魅力というと、いつも熊野古道と高野山のことしか出ない。オペレーターの方はちょっと勉強不足。アロチ 丸高ラーメンくらい出してほしい」と苦言を呈する。その上で、成功するIRとは「地元の人に喜ばれるIR」だという。長期的な投資という観点や安定収入と言いがたいインバウンドビジネスなどを念頭に石川氏はこう提案する。


GT東京法律事務所の石川 耕治氏

「日本のIRは大都市であれ、地方であれ、採算性が厳しいということはみんなわかっている。ラスベガスやマカオ、シンガポールに比べて、土地代は高い、人件費が高い、建設コストも高い。法人税も高いし、地方税もある。これは業界の定説。だから、数字だけで考えるオペレーターは日本に来なくていいというのが政府の方針だと思います」

「オペレーターは採算性が悪かったら、誰かに売り払って撤退することができる。でも、地元の人や自治体は撤退できないですよね。だから、地元の人たちが喜ぶIRというのが最大の成功の定義だと思います。今日の話では具体例が見えなかったが、たとえばアイオアのIRは地元からの購買を最優先する「Buy AIOA First」というプログラムを用意しているし、メリーランドのIRはカジノの収益を積み立てて、女性起業家や地元中小企業に融資している。インバウンドは移り気なビジネスなので、やはり国内需要や地元を基本に考えた方がよいと思う」

 最後、仁坂和歌山知事は今後の事業者選定において、和歌山らしく、和歌山のためになるIRとはどういうものかをいっしょに考えていけるパートナーを選びたいと語り、シンポジウムの終会を宣言した。

関連サイト
和歌山県 IR推進室
https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/020100/ir/top.html