いよいよIR誘致に本腰を入れ始めた横浜市。「白紙一転」と報じられた横浜市のIR誘致表明だが、林文子市長の記者会見の資料を読み解くことで、なぜ横浜市がIR誘致に踏み出したのかが見えてくる。インバウンドやMICEの課題、東京や大阪との競争など、大都市である横浜市の悩みは深い。
横浜市では、これまでも情報公開の視点から、林文子市長の記者会見は文字起こしをして、ホームページにアップしてきている。大きな注目を集めた8月22日の記者会見はまだアップされていないが、当日林市長が使ったスライドは公開されている。この完全版ともいえる記者発表資料関連資料もアップされていて、横浜市の状況が良く分かる資料だ。
記者発表資料関連資料
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/seisaku/2019/0822ir.files/0003_20190822.pdf
まず、1ページから3ページまでずっと掲げられている題目に注目してほしい。すなわち、
・外国人宿泊者数の伸び率が他都市より低い傾向にあり、外国人宿泊者数が日本全体の1%に満たない
・観光客の約9割が日帰りで、宿泊客の消費額も他の都道府県と比べて少ない
・日本経済の成長産業であるインバウンド需要を取り込めていない状況
という現状だ。
特に2ページの比較がわかりやすい。日本、東京都、横浜市で、日帰り観光客の比率を比較してみると50.1%(日本)、50,3%(東京都)、87.3%(横浜市)で、9割が日帰りだ。同じく観光消費額だと日帰りで15,526円(日本)、18,740円(東京都)、6,282円(横浜市)、日帰り客は東京の1/3しか落としていない。宿泊客の消費額も49,732円(日本)、55,855円(東京都)、33,896円(横浜市)。にぎわっているように見えて、実はお金が地元に落ちていないという意味ではなかなか衝撃的な数字だ。
記者発表資料関連資料の2ページ
しかし、実はこれは不思議な数字ではなく、大阪、京都と神戸の関係に近いといえる。神戸市の観光の課題は宿泊客の確保で、奈良市も同様の問題がある。しかし、観光の宿泊拠点を奪うのは並大抵ではなく、IRに期待をかけるのは実に説得力がある。
続いて4~5ページで掲げられている題目は、首都圏およびグローバルな都市間競争がテーマだ。
・東京都区部、県央、湘南地区等への転出超過が継続している
・上場企業数や法人市民税収入で、東京23区と比べて横浜は大きな差がある
・国際会議の開催件数において、東京やアジア各国に大きく水を開けられている
などが挙げられている。
2019年6月1日現在で、横浜市の人口は383万8383人。東京についで日本では二番目に人口が多い。IRのライバルである大阪市は、2019年8月8日現在で273万7716人。人口規模で見れば差は圧倒的なのだが、上場企業数と法人市民税で比べると横浜の107社・570億円に対して、大阪は366社・1311億円に軍配が上がる。ちなみに、名古屋は146社・644億円。東京都23区は2019年6月1日現在で人口963万254人だが、1899社・8309億円を誇っている。
記者発表資料関連資料の5ページ
また、IRの肝であるMICEと呼ばれる国際会議やイベントは、UIA基準で2017年の実績は横浜は32で、東京は約8倍の269になる。ところがIR先進地域であるソウルは東京を大きく上回る688で、シンガポールは横浜の27倍である877も開催されているのである。
さらに横浜市の人口自体は、2019年をピークに減少に向かう予想で、2065年には70万人減の302万人、中身も65歳以上の老年人口が15%増、生産年齢人口が73万人減という予想が出ている。横浜の将来に不安をもたらすこれらいくつもの数字が、今回、横浜市がIR誘致に動いた背景だ。
後半はIR導入イメージとギャンブル等依存症、治安悪化に対する対策の説明なのだが、注目すべきは、17ページの「IRに関する市民のご理解」のページだ。市民説明会では反対派の強いアピールを報じることが多く、実際に筆者も都築区の説明会に参加し、予定を大幅に上回る市民からの質問タイムは、圧倒的にIR反対の趣旨だった。アンケートも取られていたが、正直前向きな答えは少なかっただろうなと思ったものだ。
しかし実際のアンケート結果を見ると、説明後のIRのイメージで「治安が悪くなる」(134)「依存症になる」(133)に続いて、「観光が発展する」(108)が入っていた。また説明会後、IRへの理解が深まったかという問いに対しては、「深まった」「やや深まった」が42%で、「あまり深まらなかった」「全く深まらなかった」が30%を上回っていた。反対が多いのは事実だが、肯定派やよく知らなかっただけという層が一定数いるのもまた事実なのだ。
記者発表資料関連資料の17ページ
賛否が激しかった30年度調査だが、これを踏まえて報告書では以下の結論が明示されている。
引き続き予算も組まれ、いよいよ本格的なスケジュールに取り組むことになる。
日帰りする観光客、税収、人口減など横浜の課題感
横浜市では、これまでも情報公開の視点から、林文子市長の記者会見は文字起こしをして、ホームページにアップしてきている。大きな注目を集めた8月22日の記者会見はまだアップされていないが、当日林市長が使ったスライドは公開されている。この完全版ともいえる記者発表資料関連資料もアップされていて、横浜市の状況が良く分かる資料だ。記者発表資料関連資料
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/seisaku/2019/0822ir.files/0003_20190822.pdf
まず、1ページから3ページまでずっと掲げられている題目に注目してほしい。すなわち、
・外国人宿泊者数の伸び率が他都市より低い傾向にあり、外国人宿泊者数が日本全体の1%に満たない
・観光客の約9割が日帰りで、宿泊客の消費額も他の都道府県と比べて少ない
・日本経済の成長産業であるインバウンド需要を取り込めていない状況
という現状だ。
特に2ページの比較がわかりやすい。日本、東京都、横浜市で、日帰り観光客の比率を比較してみると50.1%(日本)、50,3%(東京都)、87.3%(横浜市)で、9割が日帰りだ。同じく観光消費額だと日帰りで15,526円(日本)、18,740円(東京都)、6,282円(横浜市)、日帰り客は東京の1/3しか落としていない。宿泊客の消費額も49,732円(日本)、55,855円(東京都)、33,896円(横浜市)。にぎわっているように見えて、実はお金が地元に落ちていないという意味ではなかなか衝撃的な数字だ。
記者発表資料関連資料の2ページ
しかし、実はこれは不思議な数字ではなく、大阪、京都と神戸の関係に近いといえる。神戸市の観光の課題は宿泊客の確保で、奈良市も同様の問題がある。しかし、観光の宿泊拠点を奪うのは並大抵ではなく、IRに期待をかけるのは実に説得力がある。
続いて4~5ページで掲げられている題目は、首都圏およびグローバルな都市間競争がテーマだ。
・東京都区部、県央、湘南地区等への転出超過が継続している
・上場企業数や法人市民税収入で、東京23区と比べて横浜は大きな差がある
・国際会議の開催件数において、東京やアジア各国に大きく水を開けられている
などが挙げられている。
2019年6月1日現在で、横浜市の人口は383万8383人。東京についで日本では二番目に人口が多い。IRのライバルである大阪市は、2019年8月8日現在で273万7716人。人口規模で見れば差は圧倒的なのだが、上場企業数と法人市民税で比べると横浜の107社・570億円に対して、大阪は366社・1311億円に軍配が上がる。ちなみに、名古屋は146社・644億円。東京都23区は2019年6月1日現在で人口963万254人だが、1899社・8309億円を誇っている。
記者発表資料関連資料の5ページ
また、IRの肝であるMICEと呼ばれる国際会議やイベントは、UIA基準で2017年の実績は横浜は32で、東京は約8倍の269になる。ところがIR先進地域であるソウルは東京を大きく上回る688で、シンガポールは横浜の27倍である877も開催されているのである。
さらに横浜市の人口自体は、2019年をピークに減少に向かう予想で、2065年には70万人減の302万人、中身も65歳以上の老年人口が15%増、生産年齢人口が73万人減という予想が出ている。横浜の将来に不安をもたらすこれらいくつもの数字が、今回、横浜市がIR誘致に動いた背景だ。
市民説明会のアンケートでは反対派一色ではなかった?
後半はIR導入イメージとギャンブル等依存症、治安悪化に対する対策の説明なのだが、注目すべきは、17ページの「IRに関する市民のご理解」のページだ。市民説明会では反対派の強いアピールを報じることが多く、実際に筆者も都築区の説明会に参加し、予定を大幅に上回る市民からの質問タイムは、圧倒的にIR反対の趣旨だった。アンケートも取られていたが、正直前向きな答えは少なかっただろうなと思ったものだ。しかし実際のアンケート結果を見ると、説明後のIRのイメージで「治安が悪くなる」(134)「依存症になる」(133)に続いて、「観光が発展する」(108)が入っていた。また説明会後、IRへの理解が深まったかという問いに対しては、「深まった」「やや深まった」が42%で、「あまり深まらなかった」「全く深まらなかった」が30%を上回っていた。反対が多いのは事実だが、肯定派やよく知らなかっただけという層が一定数いるのもまた事実なのだ。
記者発表資料関連資料の17ページ
賛否が激しかった30年度調査だが、これを踏まえて報告書では以下の結論が明示されている。
引き続き予算も組まれ、いよいよ本格的なスケジュールに取り組むことになる。