関西に1つとは限らない 萩生田議員が和歌山のIRイベントで語ったこと

大谷イビサ(JaIR編集部)

 2019年8月26日、和歌山IR推進協議会は市内のホテルにおいて「統合型リゾート(IR)シンポジウム」を開催した。IR誘致に注力する和歌山県や地元企業の要人のほか、基調講演には衆議院議員の萩生田光一氏が登壇。長らく関わってきたIRの意義や反対論に対する意見、大阪と和歌山が立候補する関西のIRに対する持論を披露した。


基調講演に登壇した衆議院議員の萩生田光一氏


知事、議会、地元企業がIR誘致に大きな期待


 大阪府・市や長崎県とともにIR誘致にいち早く手を挙げている和歌山県。和歌山県、和歌山県企画総務課IR推進室が事務局を務める和歌山IR推進協議会、和歌山商工会議所が主催する今回のシンポジウムは、県の高いポテンシャルをアピールするとともに、県民にIRの正しい情報を提供することで、誘致の機運を醸成するねらいがある。

 冒頭、主催者として挨拶に立った仁坂吉伸 和歌山県知事は、今回のようなシンポジウムがすでに4回目となり、市民に対する説明会やセミナーなどを重ねてきた実績をアピール。基調講演に登壇する萩生田光一氏とともに手がけてきた過去のIR誘致活動を振り返るとともに、今後のIR実施までの流れ、イベントのプログラムを説明した。

主催者として挨拶に立った仁坂吉伸 和歌山県知事

 また、和歌山県とともにIRの誘致を目指す和歌山商工会議所 副会頭の勝本僖一氏は、経済効果がIR施設だけではなく、地域全体に波及させることが重要であるとアピールした。その後、関西電力 相談役の森詳介氏、南海電気鉄道 代表取締役社長の遠北光彦氏、和歌山県議会議長の岸本健氏が次々と登壇し、和歌山や関西経済におけるIRに対する期待を語った。
 

インバウンド対応やMICEの観点から考えるIRの必要性


 「IRによる関西の発展及び時局講演」という基調講演に登壇したのは、衆議院議員の萩生田光一氏。IR推進法を議員立法として成立させた1人であり、現在は超党派で結成されたIR議員連盟の事務局長を務めている。「この15年間は厳しい時代もあり、『ギャンブル推進議員』というレッテルを貼られたこともあった。でも、ギャンブル好きだからやったわけではなく、日本の将来を考えたとき、雇用や外国人観光客の増加、国際的なイベントを開催するために、絶対必要だという信念にも基づいて戦いを続けてきた」と振り返る。

 そして、こうしたIRの推進において、数少ない理解者が和歌山県の仁坂知事だった。萩生田氏自体は東京出身だが、和歌山出身の二階俊博幹事長と二人三脚で党を切り盛りしていたり、二階氏が議員会館で配る和歌山の物産を通して、和歌山に縁を感じているという。「和歌山に恩返ししたいとは思うが、IRの立地場所の選定においてわれわれ政治家は一切タッチしないので、いい提案を出していただき、和歌山でIRができるよう祈っていたい」と語る。

 続いて、荻生田氏はIRの必要性を考えるべく、過去の政策を振り返る。「第二次安倍内閣が訪日観光客を年間1000万人にするという目標を掲げた際、野党は鼻で笑い、多くのマスコミが無理だと言いっていた。でも、それが今はゆうに3000万人を超えている」と語る荻生田氏は、きちんと政策を作って誘導していけば方向性は定まるという確信を得たという。もうすぐ4000万人に手が届き、オリンピック・パラリンピックを機に6000万人の受け入れも進めていく。しかし、現状多くの観光客は東京、京都、大阪のゴールデンルートをなぞっているだけなので、今後は日本の津々浦々への新しいルートを作らなければならない。そのためには国際会議やイベントを開催し、“戦略的に”人を呼び込んでいく必要があるという。

 20世紀は治安やアクセスのよさから、努力せずとも国際会議やイベントが東京で行なわれていたが、イベント会場の規模がミニマム20万㎡の時代となり、日本は取り残されてしまったという。「当初の東京ビッグサイトは約8万㎡で、世界で83番目。つまり、これ以上の規模の国際会議やイベントはもはや開催できない。実際、世界のメーカーが新発表の場として選んだモーターショーは、東京からすでにフランクフルトや上海に移っている」と荻生田氏は語る。

 こうした大規模なイベントの受け皿として、日本は今後MICEと言われる国際展示場やイベント会場を強化する必要がある。ビジネスとして不採算に陥っているところも多い国際展示場やイベント会場を採算面で補うのがカジノだ。「モデルとなったのはシンガポール。最初は反対意見も多かったが、今ではシンガポールの国民もIRを導入してよかったと言っている。日本はそれ以上に効果のあるIRを作ることができると思うので、和歌山のみなさんといっしょに作っていきたい」と荻生田氏は語る。
 

15年で蓄積してきたIR反対論への回答


 「なぜIRか?」という概説に続いて荻生田氏は、15年間にわたって蓄積してきたIR反対論についての回答を披露した。

 もっとも大きい懸念は、「治安や風紀が悪くなる」「犯罪の温床になる」というもの。確かにカジノで犯罪がないわけでないが、先入観で誤解している人も多いという。特に日本の場合は、賭博が法律で規制されているが、「賭け事=悪い人」「ばくち=反社勢力」というイメージが根強く残っている。「先輩議員からもカジノが反社勢力の資金源になったらどうするんだと言われてきましたが、なぜ資金源になるのかは誰も説明できませんでした」(荻生田氏)。

 マフィアの事務所が後ろにあるようなカジノはすでに時代錯誤であり、カジノ経営者は身内まで含めて背面調査され、違法な取引があれば免許を剥奪されるのがIR業界の常識。「法律がない中でカジノが摘発されたら、あきらかに裏カジノで、これが反社勢力の資金源になる。法律ができたら、彼らの出番はなくなる」とのことで、法の下にカジノを置くことが重要だというのが荻生田氏の主張だ。ギャンブルやカジノで犯罪が増えるというのはまさにイメージだけで、シンガポールやマカオのようにむしろ犯罪が減るという。

 また、マネーロンダリングの温床になるのではという懸念もある。こちらも過去に事例もあるが、技術的な進化でマネーロンダリング自体が難しくなっているという。たとえば、世界で利用されているカジノチップは日本製が多く、チップの中にチップが入っているため、枚数や出所まで正確に管理できるという。そのため、いきなり偽のチップが持ち込まれることが技術的に難しい。

 さらに「カジノ=いかさま」であり、負ける率が圧倒的に高いという主張もよく出てくる。しかし、袖にトランプを隠して、負けそうになったらカードを変えるとか、ディーラーとプレイヤーが後ろでつながっているといった映画のようなトリックはすでに実現できない。「カジノフロアにはカメラが並んでいて、ディーラーとお客が組んでなにかやっても、すぐに犯罪として摘発される。せっかくの資格をとった職業を失うので、そこまでやるディーラーもいない」(荻生田氏)。

 教育によくないという意見もあるが、そもそも子どもはカジノフロアに入ることができないと反論。「この議論を聞いていて、私は30年前にサッカーくじのtotoを導入するときの熾烈な反対論を思い出した。子どもたちがサッカーくじでお金を使ってしまうという反対の意見だったが、小学生がサッカーくじを対面で買うことはあり得ないし、この30年間でサッカーくじを原因で事件や犯罪になったことはない」と荻生田氏は指摘する。その一方、totoの財源により、土埃のグラウンドが芝生になり、夜間照明がつき、選手が強化され、日本のスポーツの施設やレベルを底上げされたという。

 荻生田氏は、「私は歴史が証明することなんだと思う。私や仁坂知事が最初にIRと言ったとき後ろ指を指されても、できあがったものをみれば、彼らが言っていたのはこういうことだったのかと理解してもらえるものを作る自信がある」と語る。

 一方で、「腹立たしく感じている」のはカジノに誘導するメディアの報道だという。「私たちが目指しているのはカジノではありません。あくまで滞在型のリゾート施設です。『1億総カジノ動員法』のように言う人もいますが、嫌いな人は行かなくていいんです。しかも行く場合は、一定のハードルがあります。お金を払って非日常的な空間で楽しんでもらい、日本の文化や伝統にも触れてもらえるものを作ります」(荻生田氏)。和装の女性や踊り、花火など海外の人にとって新鮮に感じるコンテンツを考えてほしいと荻生田氏はリクエストした。
 

関西で1つというルールはない 大阪対和歌山、大いにけっこう


 最後、荻生田氏がテーマに挙げたのは、近接する大阪との関係だ。府・市挙げてIRを推進している大阪は自治体や商圏としての規模も大きく、誘致レースも先行している。区域整備計画で決定される全国3カ所のうち、大阪にIRが決まれば、近接する和歌山のIRは不要になるのではないかという懸念だ。

 実はこの懸念は与党内で議論されていたという。全国3カ所で東日本、中日本、西日本と区域を決めてしまえば、ある意味競争や選抜にならない。そのため、3カ所というだけではなく、エリアを分けないという点も立法の意図として組み込まれているとのことだ。「夏の甲子園のように、1回戦目から大阪対和歌山というのはありだと思う。責任を持って言いますが、最初から『関西には1つ』というルールは決めていないので、大いに競争していただいてけっこう」と荻生田氏は語る。

 その上で、前述したとおり、IRの区域整備計画においては政治的な差配が一切働かないという点を強調した。「要は中身がよいモノを客観的に判断してもらうというルールになりました。大事なのはコンセプト。だから、大阪と同じものをやっても意味はない」と持論を展開する。たとえば、大阪は都市型、和歌山は地方型という色づけをしていけば、関西に2つというのも十分あり得るというのが荻生田氏の意見だ。さらにIRの事業計画に関しては30年を見越した長期的な視野が必要で、政治的な意図や事業者の都合で継続が難しくならないように定期的なチェックが行なわれると説明する。

 荻生田氏は、「今のままで各自治体ボーッとしていたら、将来のまちづくりの展望は描けない。どこかのタイミングで仕掛けていかなければならない。仕掛ける方法がIRである必要はないが、和歌山は早い段階でIRに目を付け、地理的な利点もあり、インフラ整備も終わっている。知事や議会、みなさんがいっしょにIRを牽引してもらったら、将来の和歌山の未来像は変わってくるはず」と語り、政府・与党としてIR実現に向けた動きを加速していくとアピールした。

 シンポジウムの後半は、和歌山のIRに注力するサンシティ・グループ、バリエール、ブルームベリーリゾーツなどの3オペレータのプレゼンテーションと、大阪との近接性をテーマにしたパネルの模様をお伝えする。

IR推進室 | 和歌山県
https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/020100/ir/top.html