統合型リゾート(IR)の誘致を目指す和歌山県 企画部 企画政策局 企画総務課 IR推進室 課長補佐兼班長 大石崇氏へのインタビュー。後半では、特に力を入れるギャンブル依存症対策や和歌山県ならではのIRの姿について話を聞く。(以下、敬称略 インタビュアー KADOKAWA 玉置泰紀)
和歌山県が考えるギャンブル依存症対策
玉置:今までは統合型リゾートのメリットについてでしたが、ギャンブル依存症対策や反社会的勢力への対策などデメリットについても聞かせてください。
大石:国民の多くが懸念しているのは、ギャンブル依存症だと思います。日本には現状カジノ施設がないので、基本的にはカジノ施設を起因とするギャンブル依存症はありません。一方、既存の公営ギャンブルや、遊技場であるパチンコを原因とする依存症の問題は少なからず存在します。
しかも、医療機関による治療が必須となる薬物やアルコールの依存症と異なり、ギャンブル依存症は発見が難しいと言われています。たとえば、家庭不和や借金問題といった形で顕在化するので、対応窓口もバラバラです。多くの人は「生活資金がなくなる」とか、「家庭を壊してしまう」という気づきを経て、元の生活に戻りますが、ごく一部の人が病的に依存してしまうと言われています。こうした問題がギャンブル依存症には存在します。
玉置:確かに行動依存なので薬を飲めば治るというものでもありません。
大石:でも、この議論はなかなか収斂しません。ギャンブル依存症とは治療が必要な病気であるという事実がある一方、カジノに「行くか、行かないかは自由であり、あくまで個人の問題」と考える人も多くいます。立場によって議論がまったくかみ合わないんです。この問題の根が深いところです。
玉置:なるほど。では、和歌山県としてはどういった対策を検討してきたのでしょうか? 大石:和歌山県はギャンブル依存症への対策に関しては重要視しています。かつてはIR誘致に反対する方々に配慮し、「本県の統合型リゾートのカジノ施設については外国人専用する」という方針を掲げていました。その上で「これで論理的にギャンブル依存症はゼロになります」と説明を行ったところ、「外国人はギャンブル依存症になってもいいのか」という声が一部から上がりました。
反対のための反対ではなく、論理的にギャンブル依存症を防ぐため、われわれは政府に対して厳しい入場規制を要望し、結果として年齢制限や入場料の徴収、短期・長期での入場規制などがIR整備法に盛り込まれました。私たちが想定したものよりも厳しい規制が盛り込まれたので、論理的に考えてカジノ施設を起因としたギャンブル依存症になる人はいないと考えています。
玉置:自治体として盛り込んでもらいたい規制を要望していたのですね。
大石:これに加えて、和歌山県とIR事業者は共同でギャンブルに関して予防教育を行なっていく予定です。あくまで人生の彩りとして嗜むものなので、過度にのめり込むと依存症になるという点は薬物やアルコールなどと同じく、きちんと教育していきます。
統合型リゾートのカジノ施設は、パチンコ屋のように街中にあってふらっと入れる施設ではありません。たとえば、ゴルフ場のようにドレスコードを設けるようオペレーターには求めます。オペレーターにとっても、問題ギャンブラーを出さないということは事業を安定的に営む上で大切な要件であり、適度に楽しく、長く遊んでくれるお客様が「いいお客様」なので、興奮して全財産をすってしまうようなお客様は求めていないと聞いています。
玉置:とはいえ、一発破産リスクもありますよね。
大石:現状、IR整備法では日本人は現金のみ使用可能とされていますが、和歌山のカジノに関しては、IRカードを作って、そこに現金をチャージして遊んでいただくという仕組みを導入しようと考えています。そのIRカードに使用金額の上限設定や与信の機能を持たせておけば、一発破産のリスクにも対応できると思います。
オペレーターとお話ししていると、やはり「クールダウンする瞬間をいくつ作れるか」が鍵だそうです。だから熱くなっている人には声がけをして、「向こうのバーで一杯飲みませんか」「今日は負けが込んでいるので、そろそろやめませんか」とクールダウンさせる活動をやっているんです。今のテクノロジーの進歩を考えれば、2020年の半ばには、現金が飛び交う世界ではなくなっている気もしますので、和歌山は最初からカードで遊んでいただく仕組みを考えています。
玉置:聞いていると、自治体としてもギャンブル依存症にかなり積極的に取り組んでいますね。
大石:どういったことにも、メリットとデメリットはあります。統合型リゾートが来ることによって和歌山にもたらされる経済的な便益や発展の可能性といったメリット、そして「カジノを原因とするギャンブル依存症等が発生するのではないか」といったデメリットを比較してもらえるよう、こうした対策を県として示しました。やっぱり賭け事は嫌いなので反対なのか、便益が大きいので賛成なのか、ギャンブル依存症への対策は十分なのか、正確な情報を元に検討してもらいたいです。
反社会的勢力やマネーロンダリングに関しては、まさに世界最高レベルの規制がIR整備法に盛り込まれています。カジノ管理委員会が徹底した背面調査を行ないますし、最後発なので世界各国のノウハウが詰め込まれているという認識です。当然、こうした法制度に則って、都道府県警察とも連携し、自治体がやるべきことをきちんとやっていく予定です。
オペレーターと地元で「和歌山としての個性」をアピールしていく
玉置:最後に日本型IRの「日本型」をどのように実現していくのかをお聞きします。
大石:誘致する自治体もオペレーターも一番悩んでいるところだと思います。宿泊施設や会議場、展示施設、観光施設などはすでに世界各国に存在していますが、日本の文化や伝統を発信できるエンターテインメント施設は、民間の創意工夫にゆだねられているのが現状です。
民間事業者もいろいろなアイデアを出していますが、和食や歌舞伎など、海外で受けそうなものをまとめて用意しても、すべての海外の人が喜んでくれるわけではないと思います。応募してくれているオペレーターも、北米、欧州、アジアなどそれぞれ特色がありますので、彼らが考える日本の魅力や受けるコンテンツは何なのかを、われわれも聞く必要があります。自分たちが思っている魅力と、外から見る魅力はけっこう違うと感じます。
玉置:とはいえ、地方・エリアの個性をいかに出していくかが重要ですよね。
大石:以前、海外で「和歌山の柿」を食べてもらおうというプロモーション行いましたが、海外の人から見たら「和歌山」はあまり関係ないんです。ジャパンの柿はやっぱりジャパンの柿なんです。だからオペレーターが考える日本らしいコンテンツをお聞きするのと同時に、和歌山としての個性のアピール方法もよく検討していかないといけないと思います。
昨年、広島の原爆資料館に行ったのですが、外国人の多さに愕然としました。ほとんど外国人と言ってもいい状態。私たちが修学旅行で行ったときと様変わりしていました。どういう目的で彼らが来るのか聞いたわけではありませんが、原爆資料館のコンテンツはほかでは実現できません。悲惨な歴史を背負ってきた広島のアイデンティティとして、広島で表現することに意味があるわけです。
玉置:確かに展示はコピーできますが、あの場所でやることに意味がありますよね。
大石:そう考えると、和歌山県にも高野山や熊野、何千年も続く祈りの道、日本国の成り立ちにつながるような歴史・文化が引き継がれています。毎年、東京駅前の丸の内ハウスで高野山カフェというイベントをやるのですが、驚くくらい多くの人が来ます。女性がお坊さんの話を聞きにくるんです。また最近の話ですと、「パンダ、めっちゃ生まれてるやん」なども和歌山の特徴かもしれません。和歌山でしかないもの、和歌山だから刺さるというものがあるはずです。
木桶で作る醤油の醸造現場なども、実際に見たら感動しますが、観光資源としてまだまだ利活用できるのかなと思います。日本人だってあまり見たことがないと思います。私がマカオに行ったとき、カジノ施設やホテルはすごいという印象しか残っていませんが、旧市街で食べた地元のお菓子は鮮明に記憶に残っています。外国人の方々もこういう体験に感動してくれるのではないでしょうか。
玉置:確かにそうですね。観光地よりも、体験の方が印象深いですね。
大石:北海道には北海道の素晴らしさ、長崎には長崎の素晴らしさ、大阪には大阪の素晴らしさがあるし、各地域でそれぞれコンテンツを持っているのは、日本の特徴でもあると思うんです。オペレーターが考える日本らしさと地元が考える地元らしさという2つの観点が必要になると思います。
もちろん、自治体の想いとしてはいろいろあるんですが、統合型リゾートはあくまで民設・民営なので、事業者の創意工夫を大切にしつつ、自治体の目指す方向性をオペレーターと共有しながら、知恵をしぼって和歌山らしいものを作っていきたいです。