<IR用語集・基礎知識> 横浜市

JaIR編集部

国土交通省が2019年8月上旬から9月上旬に実施したIR意向調査に「申請予定または検討」と回答。長い間最有力地と目されながら、慎重な態度を崩さなかった林文子市長(任期:2009年~2021年)だが、2019年8月には正式にIR誘致を表明した。予定地の山下ふ頭は約47haで、シンガポールのマリーナベイ・サンズとほぼ同じ広さ。長らく横浜港の中心であったが、コンテナ船の大型化に伴い、中心は水深のある大黒ふ頭へ移され、使われなくなったふ頭の再活用案としてIR誘致が浮上したという経緯を持つ。

誘致の方針に関しては、長らく市議会、市民の賛否が二分する事態に発展していた。断固反対の姿勢を見せた、横浜港を中心に港湾荷役事業等を行う藤木企業の藤木幸夫会長をはじめ、横浜港運協会所属の243団体が「横浜港ハーバーリゾート協会」を立ち上げ、カジノのないMICEの計画を主張。IR推進に反対する市民団体も、誘致の是非を問う住民投票条例の制定を求める署名を集めていた。一方、横浜商工会議所は賛成を表明しており、2019年11月にはオール横浜経済団体の協議体「横浜IR推進協議会」を設立した。

市民の賛否が分かれる中で、横浜市は2019年10月、民間企業からIRのコンセプトを募集するためのRFCを開始。応募者にラスベガス・サンズ、ウィン・リゾーツ、ギャラクシーエンターテインメント、メルコリゾーツ&エンターテインメント、ゲンティン・シンガポール、セガサミーホールディングス、SHOTOKU株式会社の名前が挙がっていたが、ラスベガス・サンズとウィン・リゾーツはその後、日本のIRからの撤退を表明した。

2021年1月には国の基本方針発表を受けて、民間事業者の公募(RFP)を開始するが、新型コロナウイルス感染症が日本国内にも蔓延した5月にギャラクシーも応募見送りを発表(ただし日本での活動は継続)。翌6月には、横浜市による資格審査の結果、2者に絞られる。うち1者は、セガサミー、ゲンティン、綜合警備保障株式会社、鹿島建設株式会社、株式会社竹中工務店、株式会社大林組によるコンソーシアムだと公表された。もう1者は未公表だが、メルコリゾーツと大成建設などによるコンソーシアムと報道された。

2021年8月に林文子市長は任期満了を迎え、4期目を目指し横浜市長選に出馬するも、元横浜市立大学教授でデータサイエンスや公衆衛生の専門家である山中竹春氏が、政策の一つにIR反対を掲げて当選。IR反対派が新市長に就任し、横浜市会本会議でIR誘致の撤回を宣言したため、横浜市は国のIR区域整備計画の認定申請から離脱することになった。9月にはメルコリゾーツと、ゲンティン&セガサミーも横浜IRへの活動停止を発表。メルコリゾーツに関してはギャラクシーと同様、日本での活動は継続すると明言した。10月1日付で、横浜市のIR推進室も廃止となっている。なお、山下ふ頭の今後について山中市長は「市民の皆様、市会の皆様と対話を重ねながら、再開発に向けた検討を進めていく」と所信表明を行っている。

(2021年10月25日更新)