シンガポールで開催されたカジノ産業の展示会「G2E Asia 2022」レポート

文・写真=田中剛/text & photos by Tsuyoshi Tanaka

 アジア地区で開催されるカジノマシン、関連機器、カジノ周辺産業およびサービスの最大規模の展示会&カンファレンス「Global Gaming Expo Asia」(通称G2E Asia)が8月24日から26日、シンガポールのIR施設「マリーナベイ・サンズ」で開催された。例年マカオで開催されてきたイベントだがCOVID-19禍により中断を余儀なくされ、ランドベースでの開催は3年ぶりだ。
G2E Asia 2022の会場となったマリーナベイ・サンズ

縮小気味ながら注目のマシンが登場

 例年マカオ特別行政府で開催されているG2E Asiaは2007年に始まり、アジア地区のカジノオペレーターの95%が参加すると言われるまでのイベントに成長した。2019年は会場である「The Venetian Macao Cotai Expo」に200社が出展し、1万6563人の業界関係者が来場した。

 しかし2020年は新型コロナウイルス感染症の拡大により、開催時期の延期、ランドベースの展示会のみを中止し、オンラインカンファレンス・イベントとしての開催などの形態が模索された末、同年8月に開催中止を決定。この年、フィリンピンで開催予定だった「G2Eアジア@フィリピン」、米国ラスベガスで開催予定だった「G2E」も中止された。2021年には当初予定の5月にオンラインエキスポ&カンファレンスのみ実施されたが、ランドベースの展示会は8月へ、さらに11月へと延期され、結局は中止となった。

 今年、主催者リードエグジビジョンはいまだ厳しい水際対策を継続しているマカオでの開催を断念し、会場をシンガポールに移して「G2E Asia 2022 Special Edition: Singapore」と銘打って、3年ぶりのランドベースでの展示会&カンファレンスを開催した。なお、米国ラスベガスでは一足早く昨年10月に対面でのイベントを再開している。

 G2E Asia 2022の会場となったのはアジア地区を代表する統合型リゾート施設(IR)、マリーナベイ・サンズ内のSands Expo & Convention Centre。しかし、ブース出展企業は約60社で、ひと目で「マカオでのイベントよりも規模が小さい」と感じる。

展示会が行われたコンベンションホール
 ブースも小粒だ。IGT、SGMS、アリストクラートといったスロットマシンメーカー大手が参加していないこともあり、会場内にゲーミングマシンの展示が少ない。ただし、SEGA Sammy CREATION(ビデオスロットマシン、アップライト型筐体のビデオルーレット)、KONAMI AUSTRALIA(ビデオスロットマシン)、ANGEL(テーブルゲーム用カード、ゲーミングチップ、テーブルゲーム管理システム)、ARUZE GAMING(マシン実機は展示せず映像モニターで製品を紹介)といったG2E Asiaでおなじみの日系企業は出展していた。

 ブースに最も多くのスロットマシンを設置していたのは韓国のKANGWON LANDだろう。同社は韓国内で唯一、韓国人が入場可能なカジノ施設「江原ランド」の運営企業だが、2018年以降、自社開発のスロットマシンをリリースしている。そのすぐ隣のブースには地元シンガポールのメーカーWEIKE Gaming Technologyが新機種「Caishen Treasure link」の3タイトルを展示していた。同社はかつてパチンコホール運営企業ダイナムジャパンホールディングスと共同でスロットマシンを開発したメーカーだ。

シンガポールのゲーミングマシンメーカーWEIKE Gaming Technologyのブース

 KONAMI AUSTRALIAは3面スクリーン・タイプとフルスクリーン・タイプのスロットマシン新製品をそれぞれ展示。3面タイプの新ゲームコンセプト「ALL ABOARD」は4つのゲームタイトルをリリースしているが、このひとつ「DYNAMITE DASH」はGlobal Gaming Awards 2022のCasino Product of the year部門で入賞している注目機種だ。

KONAMI AUSTRALIAが展示したスロットマシン

 SEGA Sammy CREATIONは7月にアジアで販売を開始した最新のスロットマシン筐体「Genesis Crest 43J」と、北米で稼働しているビデオスロットゲーム「Panda’s Treasure」、アップライト筐体のスタンドアロンETG(電子テーブルゲーム)「ルーレット・マキシマム・フォーチュン」を展示した。
SEGA Sammy CREATIONが展示したスロットマシンとアップライト筐体のETG

 マシンメーカーで最も大きなスペースを使っていたのはJUMBO Technology(台湾)で、ビデオスロットマシンやETGのほか、同時に6人までプレイできるフィッシングゲーム「オーシャン・フィーニックス」の新型を展示した。これは日本のゲームセンターに置かれている魚釣り体験ゲームとよく似たEGM(電子ゲーミングマシン)で、ランドベースカジノ向けマシンでも、オンラインカジノ向けソフトでも、ひとつのジャンルを形成している。特に東南アジアで好まれている。

JUMBO Technologyが展示したカジノ用フィッシングゲーム「オーシャン・フィーニックス」
 

オンラインカジノ向けプロバイダーの出店目立つ

 目新しいメーカーはスロベニアのメーカーinterblockで、外部から見えない閉鎖型のブースを作りEGMを展示した。カジノに設置されているETG(機械が自動でゲームを進行する)は筐体の周囲に6人~8人が着席できるものが一般的だが、同社が提案しているのはハイブリッドETG(人間のディーラーがゲームを進行する)と同様に、プレイヤーは自分の端末から賭ける筐体を選択できるタイプ。ひとつの筐体で数十人のプレイヤーに遊んでもらえるので、スペースの効率を高められる。G2E Asiaには初参加だが、北米、南米、オーストラリアのほか東南アジアでの導入実績がある。

スロベニアから参加したinterblockは各種のETGを展示
 EGMメーカーが少なかったせいか、オンラインカジノ事業者向けのソフトウェアプロバイダーや決済システムプロバイダーの出展が目立った。endorphina(チェコ共和国)はオンラインカジノ事業者にオンラインスロットゲームを提供している創業10年目の開発企業。アジア地域のマーケットへの参入を本格化させる考えで、G2E Asiaに初めて参加した。

 ひときわ来場者の目を引いていたのはCreedRoomz(アルメニア共和国)が展示した、ロボットアーム型ディーラーだ。同社はオンライン・ライブカジノ事業者にソフトウェアを提供するIT企業で、ライブカジノ用の配信スタジオも自社で運営している。同社がスタジオで雇用するクルーピエ(ディーラー)の大多数は若い女性だが、2021年にロボット・ディーラーをリリースした。新たに開設したライブカジノ「ROBOT HALL」は、「ヒューマンエラーを排除しディーリングの精度を高め、オペレータはランニングコスト(人件費)を削減できる」のがウリだ。

アルメニアから参加したライブカジノ事業者にソフトウェアを提供するCreedRoomzはロボット・ディーラーを展示

 ブースにいた同社の幹部に、「プレイヤーのほとんどは美人ディーラーを相手に遊びたいのでは?」と意地悪な質問をしてみたところ、「まったくそのとおりさ!」と大笑いした後で、「しかし、世界にはいろいろなニーズがある。ゲームに集中したい人だっている。運営コストを低減したい事業者もいる。これは選択肢のひとつなのです」と答えた。

 あるオンラインカジノ事業者向けのプロバイダーのブースで、「アジアの多くの国ではいまだオンラインカジノは合法化されていないが、アジア市場をどう見ているのか」と尋ねたところ、「オンラインギャンブルを遊ぶことが合法でないくにがあるのは知っているが、すでに市場がある(参加者がいる)のは事実だし、法律がいつ変わるかわからない。我々はいまから備えておくべきだと考えている」とのことだった。

 

執筆者プロフィール
タナカツヨシ:パチンコ産業の経営層向け専門誌『Amusement Japan』を発行する(株)アミューズメントプレスジャパン執行役員常務。パチンコ産業の取材やユーザー分析の傍ら、世界10カ国でカジノを取材。

Tsuyoshi Tanaka is an executive officer of Amusement Press Japan Inc. which is running a prominent PACHINKO industry media brand 'Amusement Japan'. He is an editor/a researcher whose field is the pachinko industry, and on the side, he also studies the casino industry. He's visited casino venues as an editor in 10 countries.