和歌山県が目指すリゾート型IRと最新の誘致動向

大谷イビサ(JaIR編集部)

 誘致プロセスが遅延しつつある日本の統合型リゾートだが、各自治体は着々と準備を進めている。昨年、北海道がIR誘致競争から降りたことで、長崎県とともに地方型IRの有力候補地に躍り出た和歌山県IR推進室の大石崇氏に誘致スケジュールや新型コロナウイルスの影響、そして和歌山県の候補地としての魅力をオンライン取材で聞いた。(聞き手:JaIR編集委員・玉置泰紀 以下、敬称略)

和歌山県 企画部 企画政策局 企画総務課 IR推進室 課長補佐 大石崇氏
 

万博開催時のIR開業は関西や日本全体にとってもメリット


-まずはスケジュールを確認させてください。和歌山県は、3月30日に事業者の公募を開始しましたが、当初は事業者からの提案審査参加書類の提出期限を8月末、優先権者の選定を11月中旬としていました。しかし、新型コロナウイルスによる影響を踏まえ、提案審査書類の提出期限を10月19日に、優先権者の選定を1月頃に延期することを6月1日に公表しました。

大石氏:現在、国の基本方針がまだ出ていない状況ですが、区域整備計画の認定申請の受付期間が2021年1月から7月30日までという内容は変更されていません。これを前提に本県では、3月に募集要項を公表し、事業者の公募に踏み切りましたが、新型コロナウイルスによる影響が拡がっていく中、4月7日に緊急事態宣言が出され、5月25日に解除されるまでの間は、都道府県間を跨ぐ移動の自粛要請等により、民間企業の事業活動に制限が生じていたところです。そこで、この事業活動が制限された期間を考慮して、緊急事態宣言が発令されていた期間、49日間についてスケジュールを延期することとしました。

-6月4日に行なわれた大阪の松井市長の定例会見で、来年1月に予定されていた認定申請期間受付の開始が延期になるのではという予測を出しています。

他自治体の会見内容についてコメントする立場にはありませんが、年末の収賄事件を受けた規制の強化や新型コロナウイルスの対応などの影響を受け、未だ基本方針やカジノ管理委員会規則が示されていないのは事実です。ただし、今国会では、「自治体から延ばしてほしいという声は聞いていないので、変更の予定はない」というのが政府の答弁です。

-大阪IRの開業は万博後になってしまうと思いますが、和歌山のスケジュールは変わらないと考えてよいでしょうか?

基本的に2025年春の開業目標は変わりません。早く開業できるという強みは今まで通りです。なるべく早く開業するというのは、政府の意向でもありますし、大阪・関西万博の際に和歌山IRが開業しているというのは、関西にとっても、日本にとってもメリットだと思います。
 

IRが受ける新型コロナウイルスの影響


-新型コロナウイルスの影響も教えてください。和歌山県にとっても影響は大きかったのではないでしょうか?

今回のコロナウイルスは本県でも、観光はもちろんのことさまざまな産業に影響が出ています。和歌山県は全国で初めて医師を含む院内感染が発生したのですが、県独自のPCR検査を実施するなどし、早期に押さえ込むことができました。一方、和歌山県では、これまで仕事と休暇の両立を目指す「ワーケーション」を南紀白浜を中心に展開しており、これまで一定の成果を上げてきました。今後、リモートワークの隆盛や企業の経営リスクの軽減を考えると、ワーケーションが新たな働き方として日本のオフィスのあり方を変えるかもしれません。

-世界中のIR事業者にもすでに大きな影響が出ていますが、いかがでしょうか?

これまでも娯楽・観光産業は、SARSのような感染症やリーマンショックのような経済危機でダメージを受けてきました。ですから、短期的に見ればインバウンドの減少や新しい生活様式、観光の在り方の変化など様々な影響を受けると思いますが、これまで同様長期的には今回の新型コロナウイルスも乗り越えられるはずです。新型コロナウイルスでIRがなくなるとは思いません。

-とはいえ、巨大なMICEや大規模な集客を前提としたIRは、すでに難しいのではないかと思うのですが。

今までのIRは大都市に巨大な施設を作るというのが一般的でしたが、長期的にはその在り方も変わっていくのかもしれません。和歌山の場合、もともとリゾート型IRを志向しているので、新型コロナウイルスの影響で、よりそのコンセプトが洗練されていくのではないかと思います。「IRに来たお客さまを既存の日本の観光資源に送り出していく」というコンセプトがよりブラッシュアップされる可能性もあるのではないでしょうか。
 

改めて和歌山県の強みとは?


-改めてIR候補地としての和歌山県のメリットを教えてください。

和歌山県の強みを考え抜いていくと、既存の多種多様な観光資源に行き着きます。文化、自然、気候、食、温泉、アクティビティなど世界中の人たちの多様なニーズを満たすことが可能です。和歌山でなければ体験できないことがたくさんあります。こうした和歌山のポテンシャルをIRを通じて、世界の人々に訴求していきたいと考えています。本県の実施方針案では、「新たな観光街道を形成する」と謳っていますが、和歌山のような地方にIRを作ることで、和歌山IRを起点に関西圏のみならず、伊勢湾、紀伊半島、四国圏等も含めて観光面で良い影響を波及させることができると考えています。

-港湾としてさまざまな制限がある大阪や横浜、長崎などに比べて、和歌山マリーナシティは一番ダイナミックなことができるのではないかという事業者の期待もあるようです。

和歌山県の強みとしては「関西国際空港に近い」「人口密集圏の京阪神に近い」「候補地がすでに造成済み」などのほか、もう1つ、マリーナシティが「マリンスポーツのメッカ」であることが挙げられます。日本遺産に登録されている和歌浦に作られた人工島であり、単に海に面しているだけではなく、本当に豊かな自然の中に位置しています。和歌山県は「スポーツ&ウェルネス」というコンセプトを掲げ、県民や事業者にしっかり示してきました。

-地元の合意形成も大きな強みですね。

もちろん、反対がゼロではありません。ただ、早くから誘致活動を展開してきましたので、県民の皆様にもIRがなぜ地域に必要なのか、どういったメリットがあるのか丁寧に説明してきたつもりです。カジノの持つネガティブな部分も「いいところがあるから目をつぶれ」ではなく、どのように対策すべきかを説明してきました。このように、地元の合意形成についてもしっかり進めてきたという自信を持っていますし、これからも引き続き丁寧に説明していきたいと考えています。

-現在、クレアベストとサンシティという2業者が参画を表明し、資格審査も通った段階ですが、見通しや手ごたえについて教えてください。

事業者には、本県の実施方針案や募集要項等の内容を理解した上で公募に参加いただいており、当然本県の強みや方向性をしっかり理解していただいていると思っています。国の方針はもちろん、われわれの方針にも合致し、なおかつ民間事業者ならではの創意工夫をこらした提案を期待しています。

-現状、大阪はMGM・オリックス連合だけになっているので、2事業者がきちんと競争するというのはいいことですよね。

クレアベストもサンシティも、活動している地域、文化が違いますので、自社の強みを活かしたより良い提案をいただくことを期待していますし、本県としても事業者を選定した後は、その事業者とともに優れた区域整備計画を作成すべくしっかり準備を進めていきたいと考えています。

和歌山県 IR推進室
https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/020100/ir/top.html